2020年09月
2020年09月29日
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ピエール・アンタイの奏法はドイツ・オランダ系のチェンバリストの重厚さにはやや欠けるかも知れない。
しかし特有の軽妙洒脱さと歯切れの良いリズム感があり、柔軟で明快な解釈は聴いていてすこぶる心地良いものがある。
アンタイの演奏は彼の師グスタフ・レオンハルトの真摯で厳格な対位法の再現を踏襲しているものの、テンポは速く、より自由闊達でモダンな表現が特徴的だ。
勿論バッハの対位法を曖昧に弾き崩すことは無く、理論と感性、そして技巧のバランス感覚の調和が取れているということにおいても優れた演奏家だ。
その典型的な例を『半音階的幻想曲とフーガニ短調』に聴くことができる。
この作品集の録音に使われた楽器の音色の美しさも特筆される。
アンタイが使用しているのは1997年製のルッカース・モデルで、はじけるような音の立ち上がりの良さと、素朴で直線的な音色が魅力だ。
特に対位法の各声部を明瞭に弾き分けることが必要になるバッハの演奏にとっては、華美な傾向になりがちなフランス系のチェンバロよりルッカースのほうが適しているだろう。
ピッチはa=415に調律されている。
この2枚組のCDは既に2005年にヴァージン・クラシックスからリリースされていたものの廉価盤化で、ヴェリタスX2シリーズのひとつになる。
ここに収められたバッハの作品集の中で、いわゆるスタンダード・ナンバーは『半音階的幻想曲とフーガニ短調』のみだ。
例えばCD1枚目の『組曲ホ短調』BWV996は元来リュートの為の作品であり、また7曲目の『ソナタニ短調』BWV964は『無伴奏ヴァイオリンの為のソナタ第2番ニ短調』のチェンバロ版で、アレンジを得意としたバッハの興味深い作品でもある。
尚録音は総て1997年に行われ、音質はチェンバロ特有の高音部の繊細さを鮮明に再現していて極めて良好。
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2020年09月27日
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リヒャルト・シュトラウス自身から薫陶を受け、ハンス・ホッターが、ピアニスト、ヴァルター・クリーンと共に1967年7月にウィーン・コンツェルトハウスのスタジオで行ったステレオ・セッション録音で25曲が知られているが、このプライザー盤には18曲のみが収録されている。
おそらく初出LPに入っていた選曲をそのままCDに当てはめたものと思われる。
尚既に廃盤になっているが、CBSソニーからリリースされた日本盤には25曲全曲が収録されていた。
ホッターは生前のリヒャルト・シュトラウスと交友があり、直接歌曲の指導を受けていた。
ホッターといえば「冬の旅」、「ブラームス歌曲集」の名唱中の名唱があるが、このリヒャルト・シュトラウスも、バス・バリトンとしての軽妙さ、見事なピアニッシモなどを駆使して、少しも重くなっていない。
大らかな旋律線の中に、じっくりとその情緒をにじませていくあたり、やはり大家の芸だ。
ホッターは稀代のワーグナー歌いとして君臨したが、リヒャルト・シュトラウスのオペラにも頻繁に登場している。
しかし歌曲となると彼の深く、しかも太い声はいくらか小回りの利かないところがあって、孤独感や別離の表現は流石だが、作曲家特有の軽快さ、甘美で颯爽とした雰囲気が求められる曲趣ではフィッシャー=ディースカウに軍配が上がることは否めない。
オーストリア・プライザーの歴史的録音はSPやLPの板起こしのような干乾びた音質でお薦めできないが、当ディスクは比較的まともな音質だ。
また若き日のヴァルター・クリーンも清潔なピアノが好ましく、ホッターの低い声をよくサポートしていて好演。
ホッター58歳の時の録音で、収録曲は以下の通り。
1)『夜』Op.10-3 2)『君は私の心の王冠』Op.21-2 3)『孤独な男』Op.51-2 4)『見つけた花』Op.56-1 5)『憩え、わが魂』Op.27-1 6)『夜の散策』Op.29-3 7)『谷間』Op.51-1 8)『君の青い瞳で』Op.56-4 9)『私の想い』Op.21-1 10)『献呈』Op.10-1 11)『憧れ』Op.32-2 12)『愛を携えて』Op.32-1 13)『快い幻想』Op.48-1 14)『不幸な男の嘆き』Op.21-4 15)『夜明けの船で』Op.56-3 16)『独り者の誓い』Op.49-6 17)『天のみつかい』Op.32-5 18)『陽光の中で』Op.87-4
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2020年09月20日
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イタリア・ウラニアからのリニューアルされた廉価盤で、キリル・コンドラシンの演奏集が2セットほどリリースされている。
こちらはチャイコフスキー作品集で、音源は既に知られたものだがリマスタリングによって比較的聴きやすい音質で再生される。
ダニル・シャフランがチェロを弾く『ロココ風の主題によるチェロと管弦楽のための変奏曲』のみが1949年のモスクワ・ライヴで、資料的には貴重だが音質はお世辞にも良いとは言えない。
交響曲第6番『悲愴』及び幻想的序曲『ロメオとジュリエット』は1965年のセッションで、この2曲はコンドラシンによって鍛え上げられた手兵モスクワ・フィルの力量を堪能できる演奏だ。
『悲愴』は、冒頭の第1主題から早くも只ならない緊迫感を漂わせ、展開部では一転して壮絶な表現を聴かせる第1楽章、「慟哭」というほかない、まさに絞りだすような痛切さが凄い第4楽章と、両端楽章がとにかく強烈。
全体を覆う、何かに追われているような緊迫感はコンドラシンならではものだ。
ここに示されたスケールの大きさには全くこけおどしののない緊張感の持続が感じられる。
これは、ショスタコーヴィチの交響曲全集と並ぶ、亡命前の彼の最も優れたサンプルである筈だ。
『ロメオとジュリエット』も、本場のロシア流儀の演奏に西欧風のインターナショナルな味付けを加味した豪演だ。
2枚目はレオニード・コーガンをソロに迎えたヴァイオリンと管弦楽のための『憂鬱なセレナード』が聴きどころだろう。
1959年の録音ながら歴としたステレオ音源で、コンドラシン、フィルハーモニアのサポートで、甘美とは言えないがコーガン一流の硬派なロマンティシズムが怜悧な美しさを醸し出している。
最後に収録された管弦楽のための組曲ト長調は、同じくフィルハーモニアとの同年の録音だが、何故かモノラルで音質もかなり劣っている。
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2020年09月15日
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アート・オヴ・ダヴィッド・オイストラフと題された3集からなるレジス盤のひとつになる。
版権の切れた音源をレーベル如何に関わらずカップリングしているのがいくらか寄せ集め的だが、オイストラフの幅広い芸術性を堪能できる1枚としてお薦めしたい。
オーマンディ、フィラデルフィアとのシベリウスに関しては、本家RCAからチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲と共にリマスター盤がリリースされている名盤で、是非とも鑑賞したい作品だ。
オイストラフはシベリウスをいくつもの録音を残しているが、冷戦時代の1959年、米ソの芸術家交流で渡米した折りにオーマンディ、フィラデルフィアとの共演で録音されたこの演奏は、とりわけ完成度の高い名演と言えるだろう。
細部に至るまで表現を丁寧に彫琢しながら、全体の骨格をしっかりと固め、完璧な技巧でもって実に密度の高い演奏に仕上げられている。
まさに圧倒的な技巧でもってこの作品の奥深い幻想性を引き出した演奏だ。
このシベリウスにおけるオーマンディの奥行きのある指揮ぶりも見事で、その豊かな表現が独奏をさらに引き立てている。
ややヒスノイズが混入しているが歴としたステレオ録音で、音質自体も比較的良好だ。
べートーヴェンの2曲のロマンスはグラモフォンの箱物オイストラフ・エディションに組み込まれている。
当ディスクの中では音質に最も優れていて、巨匠のアンコール用小品としても深みのある、また恰幅のいい表現が興味深い。
曲中最もレアな音源はシマノフスキのヴァイオリン協奏曲第1番で、モノラル録音ながら明瞭なサウンドが再生される。
この作品はグラモフォンやワーナーの全集にも含まれていないもので、スクリャービンに一脈通じるような神秘的な緊張感が全曲を貫いている。
単一楽章だが第2部には無伴奏のカデンツァが付けられている。
大編成のオーケストラを精緻に、しかしまたダイナミックに指揮するのはザンデルリングで、彼のレニングラード時代の録音だ。
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2020年09月14日
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ロシアが誇るボロディン四重奏団が1990年代にヴァージンとテルデックにレコーディングした中から、スラヴ系作曲家の作品を8枚のCDに纏めたワーナーからのバジェット・ボックスである。
彼らの最も得意とするスラヴ的抒情、神秘や機知などが遺憾なく発揮されている。
ショスタコーヴィチに関しては新録音の弦楽四重奏曲全曲とその他の室内楽を収めた7枚組がデッカ・レーベルからリリースされている。
そちらもお薦めしたいが、このセットにも7曲の弦楽四重奏曲、ピアノ五重奏曲、ピアノ三重奏曲第2番及び弦楽四重奏のためのふたつの小品が収録されている。
尚ピアニストはデッカ盤ではアレクセイ・ヴォロディンだがこちらはレオンスカヤが弾いている。
彼らの演奏の特徴はカンタービレの美しさ、羽目を外すことのない節度を持った表現力や現代作品で聴かせるエスプリなどだ。
とはいえイタリア四重奏団のような自由奔放な歌心ではなく、より古典的だが洗練された趣味にあると言える。
しかしショスタコーヴィチでは、初期のメンバーが作曲家と直接交流を持っていたこともあって、真似のできないオリジナリティーに富んだ解釈が聴きどころだろう。
その神秘的な静謐や時折表れるスラヴ民族舞踏のリズムの再現は水を得た魚のようだ。
CD7はロシアのミニチュアと題された1枚で、ボロディンの『中央アジアの草原にて』を始めとする比較的親しみ易い小品や抜粋が集められているロシア音楽入門編と言ったところだ。
また最後のシュニトケのアンサンブルの1枚も普段それほど聴く機会がない貴重なサンプルだ。
1945年にモスクワで結成され、1955年旧ソ連邦政府よりボロディンの名が与えられた、ボロディン弦楽四重奏団について紹介したい。
初代メンバーはロスティスラフ・ドゥビンスキー(ヴァイオリン)、ウラディーミル・ラベイ(ヴァイオリン)、ルドルフ・バルシャイ(ヴィオラ)、ヴァレンティン・ベルリンスキー(チェロ)で、メンバーは替わりつつも現在も活動が続けられている。
初代メンバーとして62年にわたってカルテットを支えたチェロのヴァレンティン・ベルリンスキーは2007年夏に引退し、ウラディーミル・バルシンにバトンを渡している。
モスクワ音楽院で訓練を受けた彼らは、ロシアの室内楽の解釈において独自の伝統を維持しつつ更なる変化しながら、まとまりのあるアイデンティティによりその哲学と美学は音楽文化全体を具現化している。
ショスタコーヴィチはボロディン弦楽四重奏団の初代メンバーと親交深く、作曲にあたっても様々な相談を受けたという。
彼の室内楽作品は、旧ヴァージン・クラシックスとテルデックに1990-1995年に録音されたこのボックスの中心として置かれている。
時代の変遷に従い必然的にメンバーは交代しているものの、その縁は連綿と受け継がれ、ショスタコーヴィチの演奏においていまだ他の追随を許すことなく、他のロシア作品も多くの比類ない名盤ともなっている。
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2020年09月10日
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著者ヒュー・トレヴァー=ローパー氏は美術評論家ではなく歴史家なので、本書はハプスブルク家がコレクションした美術作品の鑑定的ないわゆる美術書ではなく、ヨーロッパに君臨した一大名家がその歴史的位置付けの中で如何に芸術と関わったかというところに中心を置いて書いている。
言及している作品の写真等は総てモノクロで最低限しか掲載されていないが、それぞれの時代の当主のヨーロッパに於ける政治的スタンスと彼らの性格やその趣味が浮き彫りにされていて非常に興味深い。
神聖ローマ帝国皇帝の座を長期間に亘って受け継いだハプスブルク家が率先してその時代の芸術家達を庇護して作品を製作させたというより、当初は自分達の肖像を描かせ、彼らの功績を誇示するための手段として利用した結果、当時を時めくアーティスト達に名作を生み出させたという実用本位の指向が理解できるが、後のルドルフの時代になるとそれが本末転倒してあらゆる手段を講じてコレクションに躍起になる姿が明らかにされている。
ハプスブルク・スペイン系では保守的な堅物で、いくらか時代遅れの壮大な陵墓エル・エスコリアルを建設させたフェリペ二世が、フランドルの画家ヒエロニムス・ボスの殆んどシュールレアリズム的な絵画を虱潰しにコレクションしていたという逸話は面白い。
敬虔なカトリック教徒だった彼はボスの作品の奇怪な斬新さにある種の宗教的な崇高さと同時に現世に対する空蝉的幻想を見出していたのかも知れない。
しかし一方でフェリペは新進気鋭のエル・グレコの作風を退けた。
その選択がエル・グレコの画家としての創作活動の明暗を分けたとも言えるだろう。
後半では実質的にルドルフの後を継いだ弟アルベルト大公とルーベンスについての考察が秀逸だ。
大公妃イサベラはルーベンスに外交官の肩書きを与えてヨーロッパ各地に送り込んでいる。
著者はハプスブルクの政治手腕について高く評価しているとは言えないにしても、最後に「彼らの審美的なプロパガンダは首尾一貫してその時代の芸術家達に刺激とチャンスを与え、彼らの天才を認識させるのに十分な自由を与えた。
この芸術保護がなかったらあの百年間の芸術は如何に違っていたものになっていたであろうか」と結んでいる。
この作品が発表されたのが1976年のことなので、もはや続編を望むことはできないが、ハプスブルク家が芸術家達の庇護者として君臨する時代はその後も女帝マリア・テレージアの庇護を求めて多くのアーティストがウィーンに集まってくる18世紀後半まで続くことになる。
しかもこの時代はそれが功を奏したか否かは別としても、彼女の更に徹底した政略結婚政策が執拗に実施されたハプスブルク爛熟期を迎えたことを考えるならば、著者の研究がフェリペ二世の統治下とルドルフ二世及びアルベルト大公の時代で終わっているのが残念だ。
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2020年09月06日
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オイゲン・ヨッフムは1958年から67年にかけて第1回目のブルックナー交響曲全集をベルリン・フィル及びバイエルン放送交響楽団と共に完成させた。
そして彼が73歳になった時、当時はまだ旧東ドイツのオーケストラだったシュターツカペレ・ドレスデンを振って全曲再録音を行った。
完成にはほぼ5年間を要したがヨッフム晩年の真摯なスタイルと相俟って、比較的自由に解き放たれたテンポ感と時として強烈なサウンド造りがシュターツカペレ・ドレスデン特有の響きを最大限に引き出している。
彼らの持ち味は派手さを嫌ったかのような音色と、頑固とも言えるアンサンブルの集中力に良く表れている。
また特に『ロマンティック』以降では主席ホルン奏者だったペーター・ダムの存在感が決定的に反映されているのも興味深い。
ちなみにヨッフムは同交響曲選集をコンセルトヘボウとのライヴでも録音している。
第5番はフィリップスから、第4番から第8番までの5曲はターラ・レーベルからそれぞれリリースされている。
録音会場はドレスデン郊外のルカ教会で、大戦末期のドレスデン無差別爆撃で大破したが戦後レコーディング・スタジオとして大修復され、現在でも彼らの練習及び録音会場になっている。
ドレスデンには近年オーケストラル・ワーク専用のモダンなコンサート・ホールが完成したが、こちらは主にドレスデン・フィルの本拠地として使われているようだ。
しかし天井の高い豊かな音響空間を持つルカ教会は、これでもかと分厚く音が構築されていくようなブルックナーの作品には濁りのない豊饒なサウンドを提供してくれる。
このセットでの音質も当時のEMIの録音としては上出来だろう。
新規のリマスタリングを期待していたが、バジェット盤の宿命で、前回のリマスタリングと焼き直しのライナーノーツだったのが残念だ。
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2020年09月02日
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ダヴィッド・フレー5枚目のアルバムで、今回はモーツァルトのピアノ協奏曲第22番変ホ長調K.482及び第25番ハ長調K.503の2曲をオランダ人の指揮者ヤープ・ヴァン・ズヴェーデンとフィルハーモニア管弦楽団の協演で収録している。
尚曲中で使用しているカデンツァは、前者がエドウィン・フィッシャー、後者がフリードリッヒ・グルダの手になる。
ホールの音響空間を生かしたソロとオーケストラの釣り合いのとれたシンプルな録音状態も良好。
フレーと同世代の若手のピアニスト、マーティン・シュタットフェルトの演奏と聴き比べるとそのスタイルの違いが興味深い。
双方とも現在までにドイツ系の作曲家の作品をリリースしていて、勿論シュタットフェルトにとっては自国の音楽なので尤もなことだが、フレーは目下フランスの音楽には目もくれず、果敢にもドイツ圏の作品のみを録音し続けている。
シュタットフェルトも既にモーツァルトのピアノ協奏曲第20番と24番をリリースしているが、彼の場合曖昧さを残さない理路整然とした、古典派としての作曲家の位置づけを明確にしている。
一方フレーはいくらか耽美的になる傾向を持っているので、モーツァルトの様式感や形式美を感知させるという点ではシュタットフェルトに一歩譲るとしても、あくまでもデリケートなシルキー・タッチで仕上げた流麗で品の良い表現は、モーツァルトの音楽自体が持つ限りない美しさと幻想を巧みに引き出している。
元来モーツァルトの音楽のスタイルはインターナショナルな性格を持っているので、そうした意味では彼らのように全く異なる解釈があっても当然のことだろう。
フレーは自己のフランス的な感性を、一見対立するようにみえるドイツの音楽に最大限活かすことに挑戦して、異なった音楽上の趣味の融合を試みている。
指揮者ヴァン・ズヴェーデンも完全に彼に肩入れして、調和のとれたきめ細かい指示でサポートしているところに好感が持てる。
いずれはメンデルスゾーンやブラームスも聴いてみたい、将来が楽しみなピアニストの一人だ。
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