2020年11月
2020年11月28日
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ワーナーのこのシリーズのタイトル、20世紀クラシックスの通りホアキン・ロドリーゴ(1901-1999)は、まさに20世紀の幕開けに誕生し、その終焉に生涯を閉じた。
またギターの名手でもある彼は3歳の時失明したが、音楽への情熱を捨てきれず、勉強に励み、盲目の作曲家として前代未聞の創作活動を成し遂げた人で、ついに現代スペインを代表する作曲家となった。
その彼の作曲した最も有名な曲が、1940年(38歳)の時作曲された、ギターとオーケストラのための『アランフエス協奏曲』である。
アランフェスは、スペインの首都マドリードから南に約50キロほど離れたところにある王家の離宮のことで、その壮麗な建物や、美しい庭園で知られている。
ロドリーゴは、この離宮を訪れた時、栄華を誇っていた当時のスペインを思い浮かべながら、この曲を作曲したのだった。
ギターの特徴を生かしたエキゾチックな旋律と、独特なリズムに、スペイン情緒が溢れている。
ギターとオーケストラの醸し出す哀愁に満ちた流麗な第2楽章はとりわけ有名で、“恋のアランフェス”の題でポピュラー音楽にも編曲され、広く親しまれている。
またこの曲はオーケストラと拮抗するヴィルトゥオーソ・ギターのための協奏曲として、この楽器の新しい可能性を開拓したと言われている。
このダウンロード・ヴァージョンにはCD2枚分に当たる7曲が収められていて、ロドリーゴのさまざまな楽器のための協奏曲を一通り鑑賞することができる。
ソリストとしては比較的馴染みのない名前が並んでいるが、演奏内容はこうした作品に相応しい覇気に満ちた情熱と充実感が感じられ、技術的にも決して二流どまりではないことを付け加えておく。
録音状態は極めて良好だが、幸いアマゾンのページで試聴できるので、購入前に一度聴いてみることをお勧めする。
ロドリーゴの音楽語法の特徴はスペインの民族色が強く、最後まで調性を捨てていないところにあるが、不協和音をぶつけたり、複調性を取り入れたり、あるいは対位法や古い舞曲を巧みに利用するなど、古風なエレメントと新しい技法を混在させて、かえって斬新な曲趣を作り出している。
また管弦楽を分厚く重ねて大音響を作ることは避け、フレッシュなオーケストレーションの中に常に明快なメロディー・ラインを聴かせている。
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2020年11月25日
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イタリア四重奏団が1960年から73年にかけて完成させたモーツァルトの弦楽四重奏曲全23曲のコンプリート・セットになる。
これは91年に刊行されたCD180枚に及ぶフィリップス・モーツァルト・エディションにも組み込まれた。
ひとつの弦楽四重奏団がモーツァルトの弦楽四重奏を網羅した録音は希少であるだけでなく、演奏水準の高さでも第一級の曲集だけにお薦めしたい。
彼らの演奏は一見快活で自由闊達のように聴こえるが、実際にはダイナミズムの変化を細部まで入念に研究し尽くして、それを忠実に実践に移している。
明るく力強い響きとオーケストラを髣髴とさせる大胆な表現、またイタリアン・スタイルの流麗なカンタービレが彼らの武器で、イタリア風モーツァルトの喜びを堪能させてくれるセッションだ。
アンサンブルとしても良く鍛え上げられていて、ライヴでは常に全曲暗譜で臨んでいた。
実際彼らの合わせ稽古は昼食を挟んで一日中、時には夜半まで続けられるということも珍しくなかったというエピソードは、第2ヴァイオリンのエリーザ・ペグレッフィの語るところだ。
モーツァルトの初期の弦楽四重奏曲は彼が11歳の時に始まる一連のイタリア旅行の成果で、弱冠14歳の時に作曲した第1番ト長調の様式はサンマルティーニの同作品を手本にしている。
後にハイドンの高度な作曲技法を取り入れる前に、彼がボローニャのマルティーニ神父に師事して伝統的な対位法と声楽曲のカンタービレを習得していたことは、その後のモーツァルトの音楽性の洗練にも影響を与えていて、その技法は宗教曲、オペラにも一脈通じている。
カップリングは作曲のクロノロジカルな順序で編集されているので、イタリア様式時代、ザルツブルク時代、ハイドン・セット、そしてプロイセン・セットと創作年代を追って変化する作風も理解し易い。
またモーツァルトがハイドンから受け継ぎ、更にベートーヴェンに引き継がれるカルテットの形態が、もはや完成された小宇宙であることも納得できる。
音質はフィリップスの音源らしく鮮明で良好。
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2020年11月20日
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英レジスからリリースされた3集の『オイストラフの芸術』シリーズの1枚。
いずれもオイストラフが1950年代半ばに録音したモノラル録音だが、音質は芯の太いしっかりしたサウンドが再生される。
このディスクに収録された3曲はワ−ナ−からの『ダヴィッド・オイストラフ、ザ・グレイト・レコーディング』17枚組にあるもので、特にレアな音源ではないのが残念だ。
ただし彼の壮年期の至芸を鑑賞できることは間違いない。
タルティーニのヴァイオリン・ソナタ『悪魔のトリル』ではダブル、トリプル・ストップ上のトリルなどの高度なテクニックが惜しみなく示されている。
オイストラフは後に超絶技巧を見せつけるような作品はレパートリーから除外してしまうので、その意味では一聴に値する音源だろう。
尚この録音ではクライスラー編によるアレンジ版が使われている。
ヴラディミ−ル・ヤンポリスキーの伴奏で、1956年にロンドンのアビー・ロ−ドでの録音。
べ−ト−ヴェンの『クロイツェル』のピアノ伴奏はレフ・オボーリンだがグラモフォンに入れた1962年盤ではなく、1953年のEMI盤になる。
オイストラフには溢れるような音楽性と覇気が感じられるが、オボーリンのピアノが今ひとつ面白みに欠けるというか、彼の主張が伝わってこないのが残念だ。
冷淡ではないがあっさりし過ぎていて、もう少し作品の気迫を見せて欲しい演奏だ。
シマノフスキのヴァイオリン・ソナタニ短調は1954年にストックホルムで録音されている。
ここではヤンポリスキーのドラマティックな表現がソロ・ヴァイオリンを良くサポートしている。
第2楽章のアンダンティーノでの耽美的でロマンティックな雰囲気や終楽章の沸き立つような情熱的表現は両者のコラボの成果だろう。
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2020年11月16日
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ハイドンの弦楽四重奏への試み、つまり音楽の喜遊性と芸術性の統合が、モーツァルトにおいては既に喜遊性がやや影を潜め、このジャンルが専ら高度な音楽性や内面的な奥深い表現、ひいてはそれらを可能たらしめる自己の作曲技術の開拓を追究した作曲家自身の思索の場となった。
これらの曲集が難産の末に生み出されたというエピソードは天才モーツァルトの語るところだ。
そうした意味でもこのアルバン・ベルク四重奏団の演奏は作曲家の創意工夫と野心的な試みとが明瞭に把握できる秀逸なサンプルと言える。
ウィーンの団体にとって、モーツァルトやシューベルトはまさに自分たちのアイデンティティを示す音楽と言えるからこそ、アルバン・ベルク四重奏団にとってはかけがえのないものなのだ。
鋭敏でクールな解釈は彼らならではのものだが、また鮮烈な表現の中にさりげないウィーンの情緒を感じさせる魅力も持ち合わせている。
すこぶる精妙な重奏を維持しつつ、表現全体として線が太くて積極的、筋をきちんと一本通したものになっていて、その絶妙なバランスが耳を傾けさせる、溌剌として瑞々しく、説得力に富むモーツァルトだ。
ところでモーツァルトは、弾き方いかんで端麗になったり、細部肥大症になったりするし、清楚になることもあれば、官能的になることだってある。
愉悦性の強調も可能なら、悲劇性の強調だって可能なのであって、要するに、すこぶる幅が広い。
アルバン・ベルクの演奏は、決して一部の要素を強調しないのが特色だ。
以前より一層しなやかさを増した表情が、全体にほのかなロマンティシズムを附加し、その陰翳豊かな表現は息を飲むほどの素晴らしさで、どの曲でも余計な力みが完全に抜け、音楽は実によどみなく流れ、瑞々しさに溢れている。
これほど緻密で、しかも人為的作為性というものが感じられない感興豊かな演奏は滅多にない。
7枚組のボックスにはハイドン・セットの6曲とプロイセン・セットの3曲及びホフマイスターK499、そしてマルクス・ヴォルフのヴィオラが加わった弦楽五重奏曲K515、K516と更にモーツァルト自身の編曲になる弦楽四重奏伴奏のピアノ協奏曲K414及びピアノ四重奏曲K493が収められている。
尚録音は1988年から91年にかけて行われたものだが、アルフレート・ブレンデルが加わる7枚目のみが2000年のライヴから採られている。
廉価盤セットながら35ページのライナー・ノーツには曲目紹介、録音データの他に英、独、仏語による簡単な解説付で音質は極めて良好。
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2020年11月10日
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ベートーヴェンの音楽に内在する可能性を鮮烈に引き出した演奏だ。
初めて彼らのカルテットを聴いた時には、例えば『セリオーソ』の極限まで高揚するようなアグレッシブなアタックや第1ヴァイオリンを受け持つギュンター・ピヒラーのスタンド・プレイ的な独特のディナーミクにいくらか違和感を感じた。
しかし曲を追って聴き込んでいくうちに、決してグロテスクなパフォーマンスではないことに気付いた。
そこには外側に発散されるサウンドの斬新さとは対照的に、作品の内部に掘り下げて収斂させる表現力にも成功しているからだ。
彼らのアンサンブルは良く鍛えられていて、4人の士気の高さとともに音色には特有の透明感がある。
個人的には特に後期の作品群が。彼らの解釈に最も相応しいのではないかと思う。
聴覚を失って音響から隔絶された世界で作曲を続けたベートーヴェンの境遇を考えれば、どうしてもそこにセンチメンタルな表現を期待しがちだ。
彼らはむしろクールな情熱で弾き切り、清澄だが鑑賞的なイメージを払拭することによって、新時代のベートーヴェン像を見事に描き出したところが秀逸だ。
現在多くのレーベルからリリースされている箱ものバジェット盤は、それぞれ限定生産と銘打ってあるにせよ、芸術的価値は別として、商品としては音源の在庫清算とも思われる。
こうした企画のラッシュは初出時に1枚1枚正価で買い集めたオールド・ファンにとっては、ミュージック産業の生き残りを懸けたサバイバル戦を垣間見るようで複雑な思いだ。
ただこれからクラッシックを聴き始める入門者や若い世代の人達には朗報に違いない。
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2020年11月05日
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フリッチャイの『フィガロ』が人間劇を見せるオペラとすれば、ベームのそれはグランド・マナーで聴かせる洗練された手法が際立っている。
それゆえ実際の舞台での上演を比較するなら、前者はとんとん拍子に進む喜劇としての側面が最大限に生かされているし、後者は芝居の面白みよりも、むしろ音楽をじっくり聴かせる玄人向けの演奏だろう。
ベームはモーツァルトが書き記した音符を忠実に再現することに腐心していて、そのために習慣的に省略される第4幕のマルチェッリーナとドン・バジリオそれぞれのアリアも収録している。
マルチェッリーナのアリアの後半はコロラトゥーラの技巧がちりばめられた難曲なので、単なる脇役としてのキャスティングでは済まされない。
確かにモーツァルトの時代は総ての登場人物に最低1曲のアリアが与えられていたのも事実だ。
だから最終幕はバルバリーナの短いアリアから始まってマルチェッリーナ、ドン・バジリオ、フィガロそしてスザンナとアリアが連なっていて壮観だが、舞台での芝居の展開は緩慢になる。
しかしベームはとにかく音楽自体に語らせることに神経を集中させているようだ。
それだけに表現を歌手の自主性に任せることは避けているように思われる。
彼にとって『フィガロ』はそれほど思い入れのある、また熟練を要する作品として厳しく取り組んでいる姿が想像される。
1968年の録音で会場はベルリンのイエス・キリスト教会だが、音質はリマスタリングの効果もあってクリアーだ。
ベルリン・ドイツ・オペラの決して重くならない伴奏も舞台作品で鍛えた実力を示している。
歌手陣も当時のオール・スター・キャストを実現したもので、タイトル・ロールのヘルマン・プライ、フィッシャー=ディースカウの伯爵、ヤノヴィッツの伯爵夫人、エディット・マティスのスザンナ、トロヤノスのケルビーノなど現在では望めないような豪華な顔ぶれを揃えているのも魅力だ。
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2020年11月02日
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ルドルフ・ケンペがシュターツカペレ・ドレスデンとの長いコラボで遺した名演と言えば、リヒャルト・シュトラウスの管弦楽曲集がその代表格だが、ヨハン・シュトラウスを始めとする際物的なレパートリーも少ないながら存在する。
このディスクはその廉価盤で、僅か6曲、収録時間47分だがUHQCDバージョンもリリースされている。
1972年から翌73年に彼らのレコーディングの牙城ルカ教会で収録したもので、当時の首席指揮者はブロムシュテットだったので客演になるが、もちろんドレスデンはケンペの古巣でもあり、気心の知れた手兵オーケストラだ。
ちなみにケンペはこうした曲目を1958年と60年にウィーン・フィルともEMIにも録音していて、それらは英テスタメントからの12枚組に加わっている。
聴き比べるとドレスデンはウィーン・フィルほど洒落っ気や遊び心はないし、団員自身が愉しんでいるような解放感もウィーン・フィルには適わないだろう。
ワルツで二拍目の後打ちを先取りするウィーン流のリズムの取り方はドレスデンも試みているが、これもウィーン・フィルの方が板についているのは当然だ。
しかし決して野暮ったい印象はなく、ケンペの統率によって誠実な姿勢が貫かれている真摯な演奏だ。
むしろアンサンブルの正確さや知的にオーガナイズされたダイナミズムではドレスデンが優っている。
ケンペはある程度ウィーン・フィルの即興性や自主的な表現に任せていて、細かい指示を出さなかったのかも知れない。
よく知られているように『金と銀』に感じられるしみじみとした幸福感は流石だ。
またティロル地方の民族楽器ツィターのソロが入る『ウィーンの森の物語』も独特の雰囲気を出していて秀逸。
彼らの演奏からもウィーンへの憧憬が伝わってくるようだ。
大規模なオーケストラル・ワークやオペラだけでなく、こうした庶民的な小品にも絶妙な音楽性を示したケンペの手腕に改めて感心させられるアルバムだ。
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