2021年06月

2021年06月28日


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1987年3月87歳で亡くなったジェラルド・ムーアが行った、1967年の引退記念コンサート。

ロイヤル・フェスティヴァル・ホールで行われたこのコンサートにはシュヴァルツコップ、ロス・アンヘレス、フィッシャー=ディースカウといった当代を代表する大歌手が一同に会した。

歌手を巧みにサポートするピアニストとして、リート演奏史を支え続けた名手が、この日ばかりは主役となり彼の業績が名手の歌で語られる。

歌や器楽の伴奏をしたことがある方なら、ジェラルド・ムーアを知らない人はまずいないだろう。

彼はシャリアピンに始まる名歌手からシゲティなどの名奏者、そして彼が生きた時代のおよそありとあらゆる音楽家の伴奏を片っ端から経験したピアニストだ。

その経験の豊かさだけでなく、謙虚でしかも研究熱心な姿勢は、それまでソリストにとって引き立て役でしかなかった伴奏という分野を芸術の領域に引き上げることに貢献した。

彼が温め続けたその伴奏芸術のエッセンスがこの67年の引退記念コンサートに集約されていると言っても過言ではないだろう。

一人の伴奏者がこのように大歌手三人を呼んで演奏会を開いたというのも前例のないことだ。

彼の伴奏に関するポリシーは自身の手になる著書『ある伴奏者の回想』のなかでユーモアたっぷりに書かれている。

ソロを活かすには歌詞の言語を理解すること、調性、そして声や楽器の種類によっても総て伴奏者がそれらに合わせ、長所を引き出さねばならない。

またオペラのアリアでは自分がオーケストラの役目を担わなければならない、などその秘訣を語っている。

このコンサートではドイツ・リートが中心だが、シュヴァルツコップとデ・ロス・アンへレスのデュエットによるロッシーニの『二匹の猫』はムーアのとぼけた伴奏の巧みさと二人の歌手の悪乗り気味の猫の声で聴衆も抱腹絶倒だ。

また最後に彼が披露する、おそらく最初で最後だったであろうソロ、自らの編曲によるシューベルトの『楽に寄す』は、彼が長年のキャリアを振り返り、その静かな喜びや励みをしみじみと表現していてひたすら巧い。

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classicalmusic at 05:28コメント(0)シュヴァルツコップF=ディースカウ 

2021年06月20日


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この『道化師』『カヴァレリア・ルスティカーナ』のオペラ全曲録音の一番の特色は、大歌手時代の名だたるオペラ歌達が、とびっきりの美声とそのスタイリッシュな歌唱で歌い切った記録であり、指揮者は彼らの能力をどれだけ発揮させるかに重点を置いていて、現代のように指揮者が前面に出て、歌手を持ち駒のように扱う手法とは対照的だ。

少なくとも1980年代までは、声自体で芸ができるオペラ歌手が存在した。

指揮者ジュリーニは後年オペラから手を引いた理由に、歌手の質の劣化を忌憚なく語っている。

このディスクで異なる性質の2人の主役を歌っているジーリは、元来リリック・テナーだが、その表現力によってドラマティックな『道化師』のカニオも巧みに歌っている。

しかも『カヴァレリア・ルスティカーナ』の録音された1940年には既に50歳だったが、声の張りと瑞々しさ、コントロールされたパワフルな声量には驚くべきものがある。

それはサントゥッツァ役のソプラノ、リーナ・ブルーナ・ラーザも同様で、指揮者の存在が霞んでしまうほどの名唱と言える。

また興味深いのはシミオナートが端役のマンマ・ルチアを歌っていることで、当時30歳だった彼女がまだ主役を与えられていなかった。

彼女が主役サントゥッツァを歌うのは更に10年ほど後のことだ。

マスカーニの『カヴァレリア・ルスティカーナ』は初演から熱狂的に受け入れられたが、ストーリー的には下世話な怨恨による犯罪物語で、後にトスカニーニをしてつまらない作品と言わしめた。

そうした欠点を救っていたのは、まさにその時代の大歌手達だったと言えるだろう。

作曲者マスカーニの指揮ぶりも、それほど上手いとは言えないが、ジーリなどの声の栄光によって救われた作品であることが、このCDを聴くことで理解できる筈だ。

『カヴァレリア・ルスティカーナ』の冒頭にマスカーニ自身の口上が録音されている。

彼はこの作品が作曲から50年を迎えたこと、HMVの全曲録音の勧めには、自分の音楽が生きたものとして残されることを望んで引き受けたとなどを述べている。

おりしもイタリアはファシズムの時代に突入していて、彼の口調はいくらかムッソリーニ調であることも面白い。

尚ディスクの数は2枚だが、ライナーノーツに全曲のリブレットが掲載されているので、カートン・ボックスに収納されている。

ニンバスのプリマ・ヴォーチェ・シリーズの殆どがSPレコードからの板起こし盤だが、再生機のグラモフォン(蓄音機)の音響だけでなく、再生された室内の残響も一緒に拾って録音するという方法で、かなり肉声に近いサウンドが得られている。

オーケストラはいくらか寝ぼけたような音だが、人の声域は当時の録音機器に適していたようで、他社のCD化された物より潤いがあって臨場感も得られている。

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classicalmusic at 21:46コメント(0) 

2021年06月14日


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全体を通して端正な中にも豊かな共感をもった演奏であり、亡き指揮者ヨッフムの注目すべき遺産である。

周知のようにヨッフムは2度にわたってブルックナー交響曲全集を完成しており、生涯ブルックナーに打ち込み、20世紀のブルックナー演奏の正統派を担う存在だった。

しかしこの指揮者は、これはブルックナーに限らず全般にいえることだが、スタジオ録音となるとまとめへの指向がまさって、音楽の内的動態性が弱まる傾向があったことも確かだ。

CD6枚組集成として復刻されたコンセルトヘボウ管弦楽団とのこのライヴは、そうした弱点がないばかりか、音楽が内的な力に満ちて確固たる有機体をつくり、ひとつの完成されたブルックナー世界を見事につくり出している。

驚くほど円熟した音楽で、ヨッフムのブルックナー芸術の真髄が見事に表出されている。

静かな深みを湛えた音楽は強く心に染み込むもので、ヨッフムの若い時代からのブルックナーへの愛情、そして人生への観照、さらに神への祈りに通じる想念までが示されている。

作曲家独自の生成と高潮とが交替する作品の構成を、 いっそう純化し、明確化して、曲に見通しのよさを与え、 オケもまさにアンサンブルの極致ともいえる演奏を展開し、この作曲家と作品への豊かな共感を溢れんばかりに表現している。

ヨッフムはコンセルトヘボウと縁が深く、完全に気心が知れた者同士の息の合った演奏になっているのがよく伝わってきた。

このオーケストラ特有の美しい響きに満たされ展開される理想的なブルックナーで、味わいと迫力が見事に融合した、今や失われた美しいブルックナー演奏が甦っている。

強固ながらも威圧的にならない開放的な造形と音の広がり、「オルガン的な響き」のブルックナーはここに極まった感がある。

第5番は有名なフィリップス盤と比べ、ヨッフム翁最晩年の記録だけあってよりスケール感があり、ターラ・レーベルの中でも特に愛された名盤であった。

第6番はコンセルトヘボウ管も自薦の名演で、第2楽章など無類の味がある。

第7番は1970年の録音で晩年の東京ライヴとは別もの、力強さと雄渾さが素晴らしい。

第4番は語り口のうまさにぐいぐいと引き込まれる。

第8番も第3楽章における柔らかで透明な明るさを湛えた美しさはヨッフムのブルックナーの到達点にも思えるし、フィナーレの圧倒的なコーダが忘れがたい見事な大演奏。

どの曲も今回新たにリマスタリングを施し、放送録音ということを考えても優秀な音質であり、愛蔵盤として永くお聴き頂けるセットとなろう。

解説書も充実、ヨッフム翁の有名な論文「ブルックナーの交響曲の解釈のために」を新訳(河原融氏訳)で収録している。

この論文はヨッフムがブルックナーについてわかりやすく語ったもので、曲の頂点はどこか?といった議論から第5番の金管増強の件に関する考察など、ブルックナーを聴く上で興味深く参考になる話題が満載である。

これまで不十分な訳でしか読めなかった文章でもあり、細かな注釈まで完備したこの新訳は大変貴重なものと言える。

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classicalmusic at 02:00コメント(2)ブルックナーヨッフム 

2021年06月11日


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ハーゲン弦楽四重奏団は、デビュー当初から幅の広いレパートリーを誇り、モーツァルトからショスタコーヴィチ、そしてフランス印象派から新ウィーン楽派までをその手中にしてきた。

ここでの演奏は全体的に速めのテンポで、鈍重になりがちなシューマンの作品から若々しい創作のエネルギーを奔流のように放出した、ロマン的な情緒と清楚なまでの雰囲気が横溢したものとなっている。

シューマンは弦楽四重奏曲を3曲ほど遺しているが、これらはいずれも1842年の作品で、彼の若々しい創作意欲が感じられる一方で、後年に見られるような内省的な感触はそれほど強くない。

ハーゲン弦楽四重奏団の斬新な解釈は、こうした若書きの作品に相応しい爽快な印象を与えている。

弾力的なダイナミズムの変化や、軽快なリズムは新しい時代のシューマン像を示している。

他のアンサンブルの演奏と聴き比べるためにアルバン・ベルクの全集を漁ったが、意外にも彼らはピアノ五重奏曲のみで弦楽四重奏曲は1曲も録音していない。

イタリア四重奏団は全3曲をレコーディングしていて、ライヴ、セッション双方がリリースされている。

彼らの解釈はごくクラシックなもので、斬新さはないが特有の歌心を駆使したリリカルな奏法が特徴的だ。

それはシューマンの歌曲作曲家としてのプロフィールを意識した解釈に違いない。

ハーゲン四重奏団のメンバーは、第1ヴァイオリン、ルーカス・ハーゲン、第2ヴァイオリン、ライナー・シュミット、ヴィオラ、ヴェロニカ・ハーゲン、チェロ、クレメンス・ハーゲンで1994年の録音。

尚シューマンの室内楽作品も彼の重要なジャンルで、上記の他にピアノ四重奏曲1曲、ピアノ三重奏曲3曲、ヴァイオリン・ソナタ2曲などが現存する。

それほどポピュラーなレパートリーにならないのは、おそらく演奏効果が出にくいという側面があるからだろう。

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classicalmusic at 17:11コメント(0)シューマン 

2021年06月07日


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ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウによって、ドイツ・リートはかつてないほどの芸術的高みとその価値を不動のものにした。

このレーヴェの作品集でも彼の全盛期の自由自在ともいえる表現力と伸びやかな歌声が冴え渡るアルバムで、バラード形式の歌曲においては、特にその強みを発揮する歌手であった。

レーヴェのバラードのドラマ性を、フィッシャー=ディースカウは雄弁で自在な表現法を駆使して描き出している。

時に、フィッシャー=ディースカウの余りに能弁な語り口が、いささか恣意的に聴こえることもあるほどである。

また伴奏のイェルク・デムスの気の利いた、時には粋で快活、また時には流麗なピアニズムが、これらの歌曲を一層生き生きとさせている。

確かに『海を行くオーディン』のようなドラマティックな作品では、ハンス・ホッターの迫力には適わないが、『婚礼の歌』での小回りの利いた早口でのたたみかけや『追いかける鐘』の軽快さ、そして『詩人トム』のメルヘン性などは替え難い芸術性に満ちている。

『エドアルド』の不気味で恐ろしい展開も見事だし、『魔王』の情景描写も卓越している。

後者はシューベルトと全く同じゲーテの詩による歌曲だが、異なった趣を持っていて興味深い。

カール・レーヴェ(1796-1869)はシューベルトとほぼ同時代に活躍した作曲家で、この2枚組のCDでは彼のバラード及び歌曲が37曲収録されていて、聴き応えのある一組である。

圧倒的なシューベルトの影に隠れてレーヴェの作品はドイツ・リートに親しみのない人にとってはマイナーかも知れないが、物語性を描写する巧みな技法とドイツ語の抑揚を生かしたリズミカルな曲想は、捨てがたい魅力を持っている。

かつてはシューベルトのライヴァルの座にあったレーヴェの歌曲(バラード)は、なぜか最近はリーダーアーベントのプログラムに見られる機会が少なくなってしまったが、優れた歌唱を得た時には、やはりその魅力は絶大なものがある。

録音は1969年、71年及び82年に行われ、当初2枚のLP盤でリリースされていたものがリマスタリングされてCDで復活したが、このセットも廃盤の憂き目にあって久しい。

尚ライナー・ノーツには総てのドイツ語の歌詞にフランス語と英語の対訳付き。

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classicalmusic at 05:53コメント(0)F=ディースカウ 
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classicalmusic

早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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