2022年02月03日

激しく熱い愛や情念とは結びつかない、徹底的に美が支配するカラヤンの《トリスタン》


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ワーグナーの楽劇《トリスタンとイゾルデ》は特別な作品である。

誕生以来オペラの中心的主題は恋愛悲劇だが、その頂点を成すのが《トリスタン》ということになる。

指揮者たちは誰も彼も、いざというとき《トリスタン》を振りたがる。

メトロポリタン・オペラに呼ばれたマーラーは《トリスタン》を要求した。

そのすぐ後に招かれたトスカニーニも同じく《トリスタン》を指揮させるという条件を出し、二人の間に問題が起こっている。

フルトヴェングラーもベームも、ここぞというときに、《トリスタン》に挑んだ。

そしてカラヤンの表舞台への登場が「奇跡」と呼ばれたのは、1937年ウィーン国立歌劇場での《トリスタン》と、翌38年ベルリン国立歌劇場での《トリスタン》だった。

カラヤンは自分がどんな作品で世に出るべきかを、よく心得ていた。

カラヤンの名を轟かせるには、ウィーンとベルリンに《トリスタン》で登場するより良い手段はない。

もっとも、指揮者の多くがそう望むが、なかなか実現できないというだけの話。

レナード・バーンスタインは、バイロイト音楽祭に呼ばれたとき、断固として《トリスタン》を主張し、とうとうバイロイトで振らないまま逝った。

カラヤンは間違いなく実力があったが、同時に野心と政治力があり、さらに幸運の女神を味方につけていた。

《トリスタン》で華々しく世に出たカラヤンだが、若い頃の演奏がどうだったかは、推定するほかはない。

本セッションの1970年のものとは大分違い、さっそうとした演奏であったことは、容易に推測できる。

一方にフルトヴェングラーをはじめとするロマンティックなワーグナー演奏があり、カラヤンのワーグナーはそうした演奏とは一線を画したものとして注目を集めていたからだ。

ワーグナーでこそ「ドイツのトスカニーニ」的なところが示されたのではないか。

ここにとり上げるのはカラヤンの同曲唯一のスタジオ録音で、彼はこのとき62歳、どうも指揮者にとって《トリスタン》を指揮するのに最もふさわしい年齢は60代であるらしい。

ベームがバイロイトでこの作品の指揮を始めたのは67歳だった。

フルトヴェングラーもバーンスタインも60代の後半で《トリスタン》を録音した。

カラヤンは、最晩年に今一度《トリスタン》全曲を上演、録音したかったようだがついに果たせなかった。

当時のEMIの録音の特色でもあったのだが、この録音には、クリアーさに欠ける部分があるのがどうしても欠点として残る。

それでもカラヤンとベルリン・フィルにしかできない極限のピアニッシモが織り成す官能的な表現は、幻のような愛の世界へと聴き手を引き込む。

カラヤンとベルリン・フィルの関係が最も緊密な時代の録音だけに、華麗な官能美にあふれた管弦楽の有機性は、他に比肩するものがない。

ベルリン・フィルの驚異的な合奏能力と表現力をフルに発揮してつくり出された音の極限的精錬と美感もさることながら、それが単なる審美的な彫琢だけにとどまらず、《トリスタン》は聴き手の官能を呪縛し、音楽の奔流と陶酔の中に巻き込んでしまう。

時おり起こる嵐のような高揚ではベルリン・フィルがここぞとばかりに圧倒的な表現力を示すのもインパクトがある。

カラヤンの黄金期を支えた名歌手たちによる配役も素晴らしい。

ヴィッカーズとデルネシュのコンビも最高で、この2人は幻のなかで唯一リアリティを持って存在する。

圧倒的な声の威力と鋭い緊張に加え、デリケートなやさしさと繊細な情感にも不足のないデルネシュ。気迫に満ちた歌唱で抜群の存在感を示すヴィッカーズ。

愛し合う2人以外にも当時としては申し分のない歌手が揃えられており、各人が最良の歌唱を展開している。

カラヤンはそうした声を管弦楽に組み込み、その精密無比な響きの美の中に溶解させる。

しかし、激しく熱い愛や情念とは結びつかない、徹底的に美が支配する《トリスタン》である。

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classicalmusic at 10:13コメント(0)ワーグナー | カラヤン 

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Profile

classicalmusic

早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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