2008年12月01日
ブレンデルのベートーヴェン:後期ピアノ・ソナタ集
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ブレンデルは、納得のゆくまで作品を研究した上で、その曲を自分のレパートリーにする人だが、シューベルトとともに、ベートーヴェンのピアノ・ソナタの分析にもすぐれている。
これは、そうした彼の徹底した研究が実を結んだもので、スタイルとしては、シューベルト的なソフトな性格をもっており、きわめて抒情的でロマンティックである。
ことに弱音の部分に魅力があり、響きの美しさとニュアンスのこまやかさはこの人ならではのものだ。
どのソナタの演奏も秀逸だが、特に第30番がきわめて美しく仕上がった演奏である。
ここではブレンデルの特徴がことごとくプラスに作用している。
第1楽章の第2主題、あのアダージョ・エスプレッシーヴォのテーマが終わった後のアルペッジョ(分散和音)や、それに続く珠を転がすようなレシタティーヴが、これほど意味深く響いたことは珍しいが、彼の高音部の音色とルバートが効いているからである。
展開部に入って弱音で第1主題が戻ってくる部分に感じた弾き方も、これこそベートーヴェンが言いたかったことなのだ、と思わせるし、その後のフォルテによる主題再現は、彼の自信に満ちたきらめくばかりの最強音によって、ベートーヴェンの切ないまでの憧れが現実の音になった場合である。
プレスティッシモの第2楽章はいたずらにテンポを速めず、音のからみを丁寧に解きほぐしてゆくので、曲の美しさがよくわかる。
第3楽章は各変奏が瞠目すべき名演だ。
曲にも演奏にも一つとして真実でないものはなく、全曲のどこをとっても音楽の心が絶えず波のようにゆれている。
ブレンデルの指の下で、ベートーヴェンの後期の作品は少しの難解さもみせず、聴く者は作曲者の心と直接結ばれるのである。
第31番はブレンデルが得意とするシューベルト的な、ソフトな表現で、きわめて抒情的かつロマンティックにまとめている。
知的にコントロールされた誇張のない表現と、美しく磨き抜かれた音色を聴くことができる。
第32番もひとつひとつの音色は珠玉のように澄んでおり、バックハウスのような剛直さとは対照的に、表情の柔らかいのが特徴だ。
力強くはじまる第1楽章では、響きのこまやかなニュアンスを大切にしながら、この曲の複雑な音の流れを見事に洗い出している。
抒情的な第2主題の音色は、ブレンデルならではの艶があり、1音1音が生きている。
第2楽章は抒情的な表現のうまい彼の美点が、よくあらわれており、静的な旋律を豊かに歌わせながら、格調の高い演奏をおこなっている。
第29番「ハンマークラヴィーア」は緻密な設計のもとに弾きあげた演奏で、あたかも音による大伽藍を思わせるようだ。
この長大な曲を、最後まで聴き手を飽きさせずに引っ張っていくあたり、大変な力量である。
ピアノ演奏法の研究者として名高いブレンデルの実力が、十全に発揮された演奏だ。
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