2008年12月07日

ブッシュSQのシューベルト「死と乙女」


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シューベルトがこの弦楽四重奏曲を作曲したのは、自分が不治の病にかかったのを知ったときだった。

どうしてこんな目に会わねばならないのか、彼は底知れない絶望にとらわれ、憤怒と苦悩の入りまじった激しい思いを、この曲の冒頭でぶちまける。

しかし一方で、苛酷な現実と折り合い、自分をなだめながら、狭い選択肢のなかで生きて行く道を見つけていかねばならない。

この曲のそんな手探りに最も近いのがブッシュ四重奏団の演奏だ。

身もよじる絶望と悲しみのなかで、藁にもすがるようにわずかな希望を見いだそうとするシューベルトのけなげさは、今にも切れそうな細い綱の上を渡ってゆく危うさを示し、いつ墜落するかというスリルをはらみ、胸を痛くさせられる。

希望は、はかなければはかないほど、いっそうそれにすがりつきたくなるのが人情。

人が人生に対していちばん真剣になるのはそのときだ。その心理にもっとも突き入ったのがブッシュの演奏だ。

当時の流行としてポルタメント奏法も多いが、それは明るい甘さを出すよりも、悲しく溢れた涙をぬぐうかのようである。

このような個性の強い演奏法には向き不向きがでることは事実だが、ぴたりとはまった時には無類の絶品と化する。それが、この「死と乙女」である。

世の中にはこの名曲のCDは無数に出ているが、その中でこの演奏ほど「死」の恐ろしさ、悲しさを感じさせてくれるものは断じてない。

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classicalmusic at 23:02コメント(6)シューベルト  

コメント一覧

1. Posted by 小島晶二   2022年05月28日 23:31
5 気高く,情熱がほとばしるシューベルトです。戦前の録音にしては良好で,奏者の思い入れが感じられる程の生々しさも有ります。ただ流石に弦のエッジ感触には乏しく,音がやや痩せて聴こえるのは致し方ないですね。アルバンベルクSQ,カルミナ SQ, イタリア SQ, 東京SQ,ウィーンSQ,ロータスSQ等優れたステレオ録音が聴くことが出来る今日,ファーストチョイスとしては推すことは躊躇しますね。
2. Posted by 和田   2022年05月28日 23:39
もっともです。改めてアルバン・ベルク四重奏団の再録音を聴くと、1990年代に入ってからの彼らの演奏がいっそう円熟すると同時に、表現に自由な精神が、より強く反映されてきていることが感じられます。この曲はシューベルト晩年の作品だけに、とかく悲劇的な性格をフィーチュアして解釈されますが、アルバン・ベルク四重奏団は劇的な性格と音楽の豊かさを結びつけ、さらに作曲家が室内楽でも追究した交響的な書法を完璧に再現しています。第1楽章の冒頭を聴くだけでも、アルバン・ベルク四重奏団がただの四重奏団に見られない豊かな表現力をもっていることがわかります。第1主題を構成する2つの要素(トゥッティによる激しい楽句とやさしく愛撫するような楽句)を鮮やかに描き分けています。これを聴いて、死の2つの面(厳しさとやさしさ)を否応なしに聴き手に印象づけます。これは、彼らの表現に誇張がないだけに、いっそうの説得力をもたらします。第2楽章における各変奏の性格を描き分ける点も、アルバン・ベルク四重奏団は他の四重奏団の追随を許しません。ひとつひとつの変奏が、あたかも完結した物語のように感じられます。これは、アルバン・ベルク四重奏団のシューベルトの音楽に対する強い共感(ウィーンの伝統を引き継ぐといえるかもしれません)と、円熟した表現力が生み出した演奏であり、この曲の最高の演奏といえるでしょう。
3. Posted by たまちん   2022年05月29日 01:25
かっこよさというものが微塵もないかわりに音楽そのものへの向き合い方にまったくの邪念を感じない。古すぎるスタイルだけれども、自分が音楽に求めていたのはこのような現実に対する、もしくは人生に対する向き合うことではなかったかと思い出させてくれる演奏ですね。ブッシュたくさん聞いたけど、これ、朴訥さでは指折りのものかもしれない。今、この瞬間にこんな絶品な演奏に出合える機会を与えてくださったことに、心から感謝します。
4. Posted by 和田   2022年05月29日 06:54
たまちんさん、コメントありがとうございます。今日の進んだ技術的なマスターという点からすると、ブッシュのこの演奏はいくぶん野暮ったく聴こえるかもしれません。しかし全体は火を吹くような情熱のほとばしりと、ヒューマンな高い志にみなぎり、聴き手の心を熱くします。お分かりのようにブッシュはエンタテインメントのために演奏しているのではありません。いわば窓から今にも身を投げようとしている人間を説得しようとする、そんな懸命さを印象づけます。今日ではそんな接し方は煩わしく、余計なお節介だという向きが増えてきているかもしれません。しかし、そこにヒューマンな共感の最後の絆があることもたしかです。またのコメント心よりお待ちしております。
5. Posted by たまちん   2022年05月29日 21:09
ブログ、もう十数年来にわたって拝読しており、多くのことを学ばせていただいてます。昨夜は酔った勢いで初コメントをいたしましたのにご丁寧な返信をいただき恐縮の至りです。ブッシュSQ、時にはいいもので、ほかと比較しようなどという心がなければ、本当に心を打つ極上の演奏だと感じることがあります。ただし比較の上での極上では必ずしもないと思うので、あくまでそれは諸条件下での偶然の出合いなのでしょう。それにしても一期一会、いい音楽との出合いはすべてそのようなものかもしれません。ありがとうございます。
6. Posted by 和田   2022年05月29日 21:19
たまちんさん、再度コメントいただきありがとうございます。ブッシュSQを味わうこと自体極上の美酒に酔うようなものですからいいではないですか(笑)。十数年も拙ブログを読んでいただきとても嬉しく思います。これからも末長いお付き合いよろしくお願いいたします。ブッシュSQは、巨匠ヨアヒムが築き上げた厳格な形式感と深い精神性を追求していくというドイツ室内楽の伝統を最も正統的に継承し、演奏史に一時代を画した世界最高の弦楽四重奏団のひとつです。ベートーヴェンの弦楽四重奏曲が圧巻です。ずっしりと重いボウイングによって楽想を深く沈潜させていくブッシュ独特のアプローチが冴える高貴なベートーヴェン演奏です。特に後期の弦楽四重奏曲では、その外部に放出する力感を可能な限り抑制する緊迫した造型法がとられています。その分だけ内に秘めた精神の大きさが感じられて胸が締めつけられる思いがします。フルトヴェングラー時代のベルリン・フィルをきくようです。またのコメントお待ちしております。

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classicalmusic

早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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