2009年07月16日
クライバーのワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」
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これはクライバー本人がなかなか満足できず、発売が遅れた録音だ。いっそう燃え上がった有無を言わさぬ演奏が可能であったとは思えるものの、十分に素晴らしい。
クライバーの果敢な意欲と完全主義が、この演奏全体に躍動し、鮮烈な光彩を与えている。
言葉で言い表せぬほどしなやかで、精妙この上ない妖しいまでの官能美を湛えており、テンポの大きな伸縮やデュナーミクの変容と緊密に関連しながら、この比類のない愛のドラマを雄弁に表現している。
クライバーの《トリスタン》は、内側へ、下方へと沈んでゆく。激しく情念や官能性を噴出させるのとはまったく逆の方向を持っている。
エネルギーは凝縮されてゆくことによって高まる。この驚異的な作品の、ドラマと音楽との基本構造にかなっていると言うべきかもしれない。
凝縮されていくエネルギーは、解放以上に聴く者をとらえる。空前の《トリスタン》がここにある。
前奏曲は、上等のなめし革のような触感で、静けさと熱っぽさ、爽快感と粘り気が不思議なバランスで同居している。
第2幕の静かな愛のシーンでは清冽な美しさが繰り広げられる。オーケストラは透き通っていて明るく、この響きによって、音楽は常に柔らかな光りに包まれる。
実に新鮮な感銘を与えるプライスのイゾルデ、積極性のある好演が光るコロのトリスタンなど、歌手たちの歌は優れているだけでなく、指揮者の音楽に見事に合致しており、オーケストラと相まって、他に類がない細やかな味わいのある演奏になっている。
石の建築ではなく、金属とガラスのそれにも喩えられようか。
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