2022年04月07日
当代最上のモーツァルト弾きとして名を成したヘブラーの至芸、ピアノ・ソナタ全集(新盤)
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モーツァルト弾きとして名を成した、ヘブラーの自信が滲み出た演奏だ。
彼女の持ち味のひとつに、見事にコントロールされた美しい響きがあるが、それはこの再録音によってますます磨きあげられている。
若いピアニストが生み出す響きのように鋭角的でなく、まろやかな中にヒューマンな感情を漂わせ、聴き手を魅了するのだ。
ひとつひとつの音符がくっきりと輝き出るような明確なタッチ、よい意味で芯のある響きが快く、少なくともモーツァルトを弾くために、磨くだけ磨きこまれた筋金入りの技巧を聴くことができる。
そして、この演奏には"気品"があり、そこが彼女の強味であろう。
ほんの少し聴いただけで気持ちが和んでくる、まろやかで、うるおいがあって、ぬくもりの感じられる演奏だ。
モーツァルトに対するヘブラーの思い入れが、弾き出されるすべてのフレーズ、すべての音に、ごく自然に反映されている。
どのソナタのどの楽章であれ、こうしたヘブラーの持ち味をたっぷりと味わわせ、楽しませてくれる。
全体に渡ってさりげない"思い入れ"が生かされており、それが容易に真似のできないこの人の個性だと知らされる。
この自然な語り口は、長いキャリアを通じてヘブラーがつかみとった奥義だろう。
ヘブラーの演奏には恣意的な表現が少しも無く、ただ自分の持ち合わせている洗練された音楽性と技巧をひたすらモーツァルトの音楽に奉仕させるという姿勢を貫いている。
その潔さとあくまでも古典派の音楽へのアプローチとしての自由自在な表現が円熟期を迎えた彼女の到達しえた解釈なのだろう。
ただここでのモーツァルトは決して枯淡の境地的なものではなく、むしろ清冽な響きで奏でた瑞々しい音楽が印象的だ。
テンポのとり方にも非常に安定感があり、それぞれのソナタに聴かれる明確なタッチによる細かなニュアンスとシンプルだが巧みな歌いまわしに彼女の確信が窺われる。
また曲想の輪郭をむやみに曖昧にすることなく、常に明晰で研ぎ澄まされた感覚を駆使した品のある表現はヘブラーならではのものだ。
どのソナタをとっても粒揃いだが、中でも白眉は第9番イ短調K.310以降の中期及び後期の作品群で、モーツァルトの自由奔放とも言える着想と深い音楽性、そして作曲技法が一つの模範的な演奏で再現されている。
1986年から91年にかけての録音で音質の素晴らしさも特筆される。
当代最上のモーツァルト演奏のひとつである。
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