2022年05月19日
ウクライナに侵攻して今は世界中から厳しい視線を浴びるロシアだが、この交響曲に虚心に耳を傾け、かつては自らが被侵略国の苦難を味わったことを改めて思い出してもらいたい
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最近のデジタル録音の鮮明かつ華麗な《第7》を聴きなれた耳には、この異様なまでにデッドでゴツゴツの演奏はショックかも知れない。
それはまるで、総天然色の新作映画を見慣れてしまった目に、戦時中の白黒のニュース映画が異様な印象を与えるのに似ている。
しかし、そのどんな色彩もかなわない強烈なリアリティは見るものを圧倒する。
このムラヴィンスキー&レニングラード・フィル盤は、そんな時代を封じ込めた歴史的1枚だ。
確かにショスタコーヴィチの交響曲は、デジタル時代になって鮮明かつ華麗な西側オーケストラの演奏が出てきてから、単なるロシア音楽の枠を越えて世界的な広がりを見せ始めた。
しかし、その国際的な普及の度合いと反比例するように「イデオロギー的」あるいは「政治的」な信念のような側面は薄められ、どうも純粋に音楽的にのみ捉え初めているような気がする。
でも、ショスタコーヴィチの音楽はまぎれもなく、「トンでもないこと」を信じていた時代の「トンでもない交響曲」なのである。
現代のようになれ合いの美音でまとめた優等生的な音楽にはない、八方破れでバランスを失したオーケストラが、デッドなホールでその信念と推進力だけを頼りに自分たちの時代の交響曲を力いっぱいゴリゴリ鳴らす。
そうやって自分たちの時代の音楽を作っていった時代があったのだ。
そんな凄絶な、まさに鳴り響く歴史としての音楽の記録がここにはある。
ムラヴィンスキーらしい、大仰な身振りとは無縁の直截的なアプローチだが、圧倒的な重量感が素晴らしい。
両端楽章の内から湧き上がる力感も凄いが、ことに第3楽章の深い慟哭が沁みる。
旧ソヴィエトの録音がアメリカのヴァンガードから発売された経緯はよく分からないが、旧ソヴィエトの音源が世に出るのは大歓迎だ。
できればスヴェトラーノフやロジェストヴェンスキー、ハイキンやイワーノフといった指揮者の名盤を復活させてほしい。
ウクライナに侵攻して今は世界中から厳しい視線を浴びるロシアだが、この交響曲に虚心に耳を傾け、かつては自らが被侵略国の苦難を味わったことを改めて思い出してもらいたいものだ。
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