2016年11月05日
マガロフのショパン:ピアノ・ソロ作品全集
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ロシア出身の名ピアニスト、ニキタ・マガロフ(1912-1992)によるショパンのピアノ・ソロ作品全集。
1974〜78年にかけ5年間で録音されており、2pと4手(ダルベルト)作品も含めて全205曲を収めている。
マガロフ60歳代の脂の乗っていて、精神的に極めて充実していた時代のアルバムである。
マガロフは、近代音楽に造詣が深いが、ロマン派にも傾倒し、自分のレパートリーのすべてに、その持ち味を発揮した演奏を聴かせるピアニストであった。
無論、ショパン弾きとしても定評のある人で、彼が最も多く好んで取り上げてきたレパートリーは、ショパンであったと考えてよいだろう。
そうした彼は、ショパンの作品を完全に自己の芸風の中に同化させ、ここでこのピアニストならではの巨匠的なスタイルの演奏を聴かせているのである。
全体にわたって、表向きはきらびやかではないとしても、自らの信じるピアニズムを究めつくした感のある練達の技巧、そして特に微妙な音彩変化の豊かさをうかがわせる演奏だ。
端麗な虚飾を排した表現をとっているが、だからといって教授タイプのそっけない演奏ではない。
こまやかな気配りがしっかりとしたヴィジョンのもとで、真に生命をもって息づいているのが感じられる。
マガロフはさまざまな理由で時流に乗ることができなかったため、わが国ではポピュラーなピアニストとは言い難い存在だった。
しかしマガロフの演奏は、現在の色々なショパン演奏の流れの中で、しっかりとした本物があったということを教えてくれるのだ。
決して恣意的に自分の領土に引っ張り込むことなく、作品が持つドラマティックな表現の世界を切り開いてみせる、実にバランスのよい演奏だ。
このショパンを聴いて一番強く感じるのは、彼がこの作曲家に対する理解がどのようなものであるかが、聴き手に率直に伝わってくる点だ。
これは当たり前のことのようだが、古典作品の解釈として今日なかなか困難になっていることなのだ。
マガロフの演奏で一番強く共感するのは、ショパンのピアニズムのグランディオーソ的な特色を生かしつつも現代的な知的なアプローチをしており、この作曲家の魅力である、ある種の誘惑に決して引き込まれ過ぎていない点にある。
実にヴィルトゥオーゾ的豊かな響きを持つが、決してテクニックだけで弾き抜くことなく、節度があり、客観的観賞に十分に耐えうる音楽を生み出している。
マガロフは大きなテクニックの持ち主であり、ショパンの音楽をいかようにも料理できる。
しかし彼は伝統的なショパン理解の線をはっきりと継承しつつ、その了解の"枠"の中で彼なりのショパンを聴かせる。
そして聴き手もその"枠"を理解することができるから、そこに共感が成立するのである。
確かな技巧を土台としつつも、メカニック的な面が前面に出ることなく、微妙な表情や変化で味付けを行いながらも、過剰な情熱表現や余分な濃厚さに陥ることはない。
過度の感傷に溺れることなく骨太に、しかも必要な情感を力強く表現していて見事であり、そこからは仄かな詩的味わいが立ち昇ってくる。
生涯を通してショパンを弾き続けながら自らのショパン解釈を究めてきた人ならではの深い含蓄が、ごく自然なニュアンスとなって現れ出たような演奏だ。
滋味深い、マガロフの真価を知るのにまたとないアルバムであり、こうした情趣あるショパンは、最近のピアニストからはほとんど聴けなくなってしまった。
底力に支えられた、まさにその実力を聴かせるショパンといってよく、現在もう一度深く考えて評価すべきは、このようなショパンの演奏ではないかとも思われる。
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