2010年08月02日
リヒターのバッハ:マタイ受難曲(新盤)
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旧盤から21年ぶりの再録音で、バッハ演奏においてかけがえのない存在であったリヒターのさまざまな変貌が示されている。
峻厳なバッハ演奏の頂点として威厳に満ちて聳え立つ旧盤に比して、この演奏では人間リヒターとしての心情を吐露している。
テンポも大幅に遅くなり、その中で登場人物の心情やドラマの劇的展開を、振幅の大きな表現で重厚に描いている。
リヒターのバッハ、とくに《マタイ受難曲》はバネのきいたリズムを特徴としている。
ともすると、懶惰に陥りがちなわたしたちを励起させるリズムだ。
だが、けっして押しつけがましくなくはない。
どうしても、そのリズムの勢いに突き動かされ、ついて行きたいと思わずにはいられぬ躍動感に満ちている。
そして、それはあるひとつの目標に向かって、ともに心を合わせて前進してゆくときの一体感をかき立ててくる。
この目標は、神との出会いを目指しているのは言うまでもない。
神の存在をフィジカルに体得するリズムとでも言おうか。
そのとき、わたしたちは人間が霊的な存在だと知る。
この霊的なリズムに乗ると、わたしたちは誰も超越的な空気にふれ、物質的な欲望がいかに卑小で、ともに同胞であることが、すべてに優るよろこびだとわかる。
それが神とともにあるという意味だ。
その意味が今日忘れられている、というよりもすでに経済の高度成長期の1970年代に、わたしたちはリヒターの望んだのとは別の生き方に引かれはじめた。
彼はその離反に深く悩み苦しんだのだろう、彼の2度目の《マタイ受難曲》の録音は、それを食い止めようとする絶望的な努力と挫折感をひびかせている。
株価の変動に一喜一憂し、金勘定に忙しいわたしたちは、リヒターの《マタイ》にもう一度立ち返って、心を問い直す必要があるのではないか。
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コメント一覧
1. Posted by オトキチ 2010年08月11日 01:51

個人的には最初の録音のほうが好きですが、二度目の演奏の深さはものすごかった記憶があります
最近はリヒターのバッハ合唱曲集が廉価で売られてるんで買いなおしたいです
カンタータにもめっちゃいいのがありますもんね
2. Posted by 和田 2010年08月11日 14:21
少し前ですが、ブリリアント・クラシックスのバッハ全集を買って、バッハのカンタータを全て聴いたことがあります。
リヒターは残念ながら、カンタータを全て録音できずに亡くなりましたが、やはり4大声楽曲集のみならず、カンタータもやはりリヒターでないと聴き応えがしないのは確かです。地道に集めていきましょう。
リヒターは残念ながら、カンタータを全て録音できずに亡くなりましたが、やはり4大声楽曲集のみならず、カンタータもやはりリヒターでないと聴き応えがしないのは確かです。地道に集めていきましょう。