2011年12月15日
ルプーのブラームス:ピアノ小品集
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これは1970年代前半の時期の、ルプーがデビューして間もない頃の演奏だが、ピアノの抒情詩人ルプーの面目躍如たる、代表的な演奏のひとつに数えられる。
ルプーは極めて若々しい感覚でソフトに作品にアプローチし、ブラームス晩年のピアノ小品によくいわれる枯淡とか諦観とは違った輝かしい光りを当てている。
特に《間奏曲》はいわば行間で語るようなところがある音楽だが、ルプーは流麗といってもよい生き生きとした音楽の流れをつくり出す。
そこに彼独特の爽やかな抒情が加わり、ブラームスの小品は新鮮な表情を湛えて語りかけてくるのである。
ブラームスのこれら晩年の小品集を、これほど親しみやすく、これほど快く聴かせる演奏が、これまでにあったであろうか。
そう思わせるほど、ルプーはこれらの作品で洗練された抒情性を徹底して追求している。
その意味で、ルプーの演奏芸術の持つリリシズムが改めて強く確認される演奏ともいえる。
ちょうど同じ頃にルプーは、シューベルトのピアノ・ソナタ第18番《幻想》を出したが、これが旋律を大きなフレーズで歌わせた見事な演奏であった。
このシューベルトのソナタは作品自体が非常に抒情的な性格をもっているが、これらブラームスの小品の場合、《ラプソディ》は別にしても、晩年の作品は枯淡で渋い音楽と一般に思われてきたものを、ルプーの演奏はなんと親しみやすく、チャーミングに聴かせていることか。
どの曲もルプーの繊細な感覚が光っており、作品のもつ多彩な表情をニュアンス豊かに表現した演奏で、ルプーの音楽的特性がよくあらわれたものとなっている。
さまざまに変化する各曲の表情を、繊細で、透明感にみちた音色で巧みに表現していて見事である。
ブラームスのこれらの作品が秘めている新しい側面に、眼を見開かせてくれた演奏として、大きな価値を持つように思われる。
この演奏を聴いてこれらの曲を好きになった人もいると思う。
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コメント一覧
1. Posted by 小島晶二 2021年08月10日 09:23
本盤は未聴ですが,ピアノ・ソナタ第18番《幻想》はCDを持っており,愛聴盤です。仰る通り実に歌心に溢れたみずみずしい演奏で,この曲の美点を余すことなく引き出しています。ただカップリングされた16番の方は今ひとつで,こちらはポリー二の整然とした演奏に惹かれます。
2. Posted by 和田 2021年08月10日 11:18
人それぞれ、多様な可能性が許されていて、事実リヒテル、ポリーニ、ペライアといったピアニストたちが、まるで、自分の姿を映す鏡のように、それぞれのシューベルト世界を創り上げてきました。そのようなシューベルト演奏のひとつの白眉が、ルーマニア出身のユダヤ系ピアニスト、ルプーの弾くソナタ第18番『幻想』ではないでしょうか。第2楽章の洗練された瑞々しさや、第4楽章の上品で生き生きとした躍動感も比類がありませんが、特にルプーらしいのは第1楽章で、遅めのテンポで楽想をじっくり歌わせており、スケールの大きなおおらかさを感じさせます。一見とりとめないこの楽章をストーリー・テラーに構成するのではなく、推移や経過句のひとつひとつが、それぞれ幸福の由来であるように弾いていくやり方は、まさに今日的な(脱・近代的な)演奏と言いたくなります。