2011年01月01日

内田光子のシューベルト:ピアノ・ソナタ第21番/楽興の時


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内田光子のシューベルトは、モーツァルトと共に彼女の定評あるレパートリーとなっている。

ソナタ第21番をメインとするこのシューベルト・アルバムは、内田自身の所有するピアノを、ウィーンのムジークフェラインザールに持ち込んでの録音である。

理想の響きを探求し、音作りに打ち込んだ彼女の演奏では、音色のひとつひとつが輝きを放つが、特に弱奏の繊細な美しさは印象的である。

そして彼女は、作品と親密に対話しつつ、この長大な変ロ長調のソナタ独特の息の長い旋律線を、丹念に紡いでいる。

さらに、まるで言葉を発しているかのような叙情的な語り口で弾き進め、音楽の流れのなかに自身の感情の起伏を融合させてゆく。

この演奏を聴いていると、シューベルトが歌曲にのみ本領を発揮した叙情作家という通説に疑問を抱かざるをえなくなる。

悪夢と祈りのあいだを往復しながら果てしなく広がって行く深遠な音のドラマの世界は、ベートーヴェン後期のソナタにも比肩する。

弱音や休止符の持つ説得力でこの内田を越えるピアニストは現在ほかになさそうだ。

リヒテルの同曲の録音もこれに似た訴えがあったが、音質があまり良くなく、CDではそれが音になっていない。

内田の場合は録音が優秀で、このシューベルトの最後のソナタを収めた1枚、とりわけ安らぎと祈りに満ちた第1楽章の最初の主題の比類のない出し方を目の前で弾いているようにとらえた録音スタッフにも脱帽。

モダンのピアニストのなかでもとりわけ鋭敏な和声感覚によって、連綿とした歌とともにうつろいゆく音色の変化をしっかりととらえている。

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classicalmusic at 15:51コメント(4)シューベルト | 内田 光子 

コメント一覧

1. Posted by 小島晶二   2020年08月29日 09:28
4 シューベルトのピアノ曲の最高峰は何といっても2つの即興曲集だと思いますが, ソナタに限れば私は13番<遺作>とこの21番を挙げたいと思います。本曲は秀演揃いで, ケンプ, リヒテル, ホロヴィッツ, ブレンデル, ポリーニ, ピリス, シフ, アシュケナージ, ルプー, ツィマーマン, 内田, カツァリス, アンスネスと百花繚乱でどれを選ぶか迷います。私はLP時代にリヒテルのビクター盤, CD期になってアシュケナージ盤を購入しましたが, 両者とも何となく物足りなく感じています。和田さんが指摘した録音の影響があるのかも知れません。この曲は各楽章の特徴を十分配慮した上でそつなく弾くのは大変難しいと思います。そうなるとやはり緻密で内省的な内田光子に落ち着くことになってしまいますね。異論は有りません。あとはツィマーマンの爽やかな演奏も好きです。
村上春樹推薦のアンスネスのソナタ17番を聞きました。清新な音色は流石に素晴らしいと感じました。村上氏は15種以上の同曲のディスクを所有しており, アンスネスの他ではイストミン, カーゾン, クリーンらの演奏も高く評価していますが, 逆にブレンデルとアシュケナージの演奏を酷評しているそうです。私はアンスネスとは対照的なブレンデルの演奏に愛着を感じますが・・。
2. Posted by 和田   2020年08月29日 13:34
シューベルトのピアノ・ソナタで最も美しく偉大な作品は、第21番変ロ長調です。真に優れた演奏で聴く時、このソナタは「神の領域」にあることを実感させます。内田光子に続くのは挙げられたツィマーマンでしょうか。作曲家が死の2ヵ月ほど前に作曲した3曲のソナタはことさら華やかな演奏効果もないので、テクニックだけで弾ける作品ではないのは言うまでもありません。またそれぞれが長大な曲で、野心などとは無縁の天上的な清澄な美しさがあると同時に、緩徐楽章には沈潜した逃れようのない諦観が潜んでいます。それゆえ演奏家としての成熟した哲学や主張がなければ、走馬燈のように続く楽想がともすれば散漫な印象を与えかねませんが、ツィマーマンの作品の本質を捉えた骨太でシンプルですがロマンティックできめ細かな精彩に富んだ解釈には曲を飽きさせない実力と説得力が示されています。第21番変ロ長調のソナタを寂寥感と慟哭で最もドラマティックに表現したのはリヒテルでしたが、ツィマーマンのそれはシューベルトの素朴な人柄に寄り添った真摯な演奏と言うべきでしょうか。
しかし第21番にたどり着くまでにシューベルトは、短い生涯にもかかわらずどれほど多くの苦節を重ねたことでしょう。未完も含め書き散らされたピアノ・ソナタ群は、どれにもシューベルトらしさが宿るものの、玉石混交は否めません。第17番もまた、完成された美しさを持つには至っていません。しかし、こみあげてくる楽想がペンを走らせずにはおかなかった…。そんなひたむきなシューベルトを慈しみ、生き生きとしたトルソを刻んでいるのはカーゾンの演奏です。
3. Posted by 小島晶二   2020年08月29日 22:13
追伸。和田さんはプロフィールを見ると哲学専攻でしたね。文章中にその言葉が出て来て, 理系の私と違って表現力が豊かだと感心します。私は13番, 21番に次いで16-18番の3曲が好きなので, カーゾンの演奏是非聞いてみたくなりました。ブリテンと共演した彼のモーツァルトに心酔していますので。
4. Posted by 和田   2020年08月29日 23:11
今日小島さんからのコメントをいただき、久しぶりにシューベルトのピアノ曲を聴いてみたいなと思い、CD棚を探していたら、小島さんご在住のチリの名ピアニスト、アラウのディスクを複数見つけました。1つは19番と21番、2つ目は20番と即興曲作品90、後の2つはファイナル・セッションズからの即興曲作品142ほかと第18番、楽興の時です。カーゾンも素晴らしいですが、アラウも好きなピアニストということなので、是非聴いてみてください。殊に第18番のいささか冗長なソナタの第4楽章の途中にようやく桃源郷にたどり着いたかのようなシューベルトの思いの丈を込めた歌があらわれますが、それを円熟の極みにあったアラウが万感の思いを込めて絶妙に歌わせていて、この部分だけ聴いても感動的です。

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classicalmusic

早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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