2011年03月12日
クリップスのモーツァルト:ドン・ジョヴァンニ
この記事をお読みになる前に、人気ブログランキングへワンクリックお願いします。
クリップス盤は、モーツァルト生誕200年(1956年)を祝うレコードのひとつとして発売されたものである。
ウィーンでの音楽生活が長い指揮者クリップスと、いつもコンビを組んでいるウィーン・フィル、そして国立歌劇場を主な舞台とする歌手たちと合唱団で構成され、お互いに身も心も通じた仲間たちで作られているのが、特色である。
序曲の出だしからあまり悲劇的な予感はさせず、軽快なリズムとウィーン風のよく歌うオーケストラ、木管楽器の妙なる響きが続く。
人間模様を描くこのオペラでは、心の安らぎ、怒り、嘆き、悲しみ、驚きと、心に映る感情の発露が至るところに出てくる。
そうした場面での木管の果たす役割とその効果は、随所に聴くことができる。
オーケストラは歌の伴奏という観念ではなく、歌手と対等の立場で絶妙な動きを見せ、一心同体で音楽を作り上げる。
これが、ウィーン伝統のモーツァルト《ドン・ジョヴァンニ》であろう。
チェザーレ・シエピのタイトルロールのドン・ジョヴァンニは押しも押されもしない、ドン中のドン、文句のつけようがない。
シエピは、ドン・ジョヴァンニ像を作り上げた男とさえいわれている。
彼の雄姿を見たさに、劇場に足を運ぶ人(主に女性だが)が多くなった、という話を聞いたことがある。
ドンナ・アンナのスザンヌ・ダンコとドン・オッターヴィオのアントン・デルモータのカップルは、着実に自分の役割を演じる。
ツェルリーナのヒルデ・ギューデンは美貌で美声、そして芝居達者と三拍子揃った当時の新鋭歌手の売れっ子。
マゼットのヴァルター・ベリーも、デビュー間もないころで、マゼット役から後年の成長を約束したような歌、新人離れした落ち着いた歌が聴かれる。
レポレロのフェルナンド・コレナの、有名な「カタログの歌」。こんな立派な歌だったのかと誰もが思うほど、スケールが大きい。
道化役の歌としては、あまりに立派で役柄を壊すとの説もあるが、立派すぎてだめということはないと思う。
大事な役のドンナ・エルヴィラは、リーザ・デラ=カーザ。若くて美人で、線はちょっと細いが勢いがあり、素直な声、よく通る声。いちずにドン・ジョヴァンニを追いかける純情な女を表現して好ましい。
騎士長のクルト・ベーメは超低音域の音に強さがあり、2幕の終焉近く、恐怖感を募らせる雰囲気をかもし出す適役である。
ひとことで言えば、オペラ・ブッファ側に軸を置いた、ウィーン風の《ドン・ジョヴァンニ》なのだ。
録音も細部まできちんととれて、厚みのある豊かな響きが楽しめ、現在でも充分に通じるすばらしい盤である。
ところで、クラシック音楽情報ならこちらがオススメです。
人気ブログランキング
フルトヴェングラーのCDなら、 フルトヴェングラー鑑賞室。