2015年04月26日
ハリウッドSQのベートーヴェン:後期弦楽四重奏曲集
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カペー四重奏団から、現在少しずつ録音が進行しつつあるハーゲン四重奏団に至るまで、いったい何十組のベートーヴェンを聴いてきたのか、自分でもよくわからないが、筆者はこのハリウッド四重奏団の演奏が最高のベートーヴェンだと思っている。
ハリウッド四重奏団の特色は、明晰で強靱、輝きのある音色、明解なイントネーションとリズムにあると言える。
ハリウッド四重奏団の演奏の特徴は、『スジガネ入りのリスナーが選ぶ クラシック名盤この1枚』(知恵の森文庫)に詳しい。
この団体のベートーヴェンを推して、筆者の1人である難波敦氏は、「ハリウッド四重奏団は、演奏の約束事を軽く飛び超えて、大フーガを含めたすべての旋律を徹底的に歌うように演奏していく」と述べている。
筆者も全く同感で、ハリウッド四重奏団の演奏を聴くと音楽が持つ抒情を明確に感じ取ることができ、メロディーの艶やかな歌い方に聴き惚れてしまう。
そうかといって流麗になりすぎ、凡庸に流れてしまうような箇所がないことが素晴らしく、それは一重に第1ヴァイオリン奏者フェリックス・スラットキンの至芸を支える三者の力によるのだと察せられる。
他のカルテットは、曲が要求するある決まった演奏形式を必ず守ったうえで、自分たちの個性を展開しようとするのだが、形式を維持することにつねに気を配ろうとするために演奏が発展せず、そこで止まってしまうことがあり、ベートーヴェンの曲はメロディーがなくてつまらない、ということになってしまう。
しかし、ベートーヴェンはモーツァルトよりも遥かに、メロディーに頼って曲を書いた作曲家である。
心を込めて美しく歌うスラットキンの第1ヴァイオリンが主導して流麗にして繊細な音楽がつくられてゆくが、4人全体の響きが充実して均質的な美しさをもつので、演奏全体は深い奥行きと大きなスケール感をもつ。
どの曲も名演だが、ことに短調の2曲、作品131、132の2曲が、心に染み入る印象深い演奏になっている。
いずれも清らかな歌に満ちたみずみずしく深く澄んだ演奏で、他の名演奏には聴かれない鮮烈な抒情美を聴かせてくれる。
「後期」の演奏の王道である厳しく絞り込み緻密に練り上げた強固な演奏とは一線を画する演奏だが、ベートーヴェンの最晩年の心の在りように肉薄している点では、ブダペスト四重奏団やメロス四重奏団など「後期」の名盤たちと肩を並べる個性豊かな必聴の名演奏である。
歌うところは歌い、厳しいところは厳しく、そして全体的に落ち着いた、むしろヨーロッパのカルテットに通ずるような演奏になっている。
このような演奏を名演と呼び、名盤と呼ぶのであろうし、アメリカのカルテットによるベートーヴェンなどという先入観は持たないことだ。
名前で損しているような団体だが、緻密なアンサンブルとがっしりとした構成感、艶のあるあたたかな美しい音色で聴かせる非常に力のある名カルテットであり、じっくり聴いてみるとジュリアード四重奏団よりも実力が上かもしれない。
演奏者の名前や、録音されたレーベルだけで、聴くレコードを選ぶのは、愚かなことであるとつくづく感じているところだ。
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