2021年11月02日
長年《トリスタンとイゾルデ》の最高峰と高い評価を維持し続けているベームの《トリスタンとイゾルデ》、待望のブルーレイオーディオ化
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このプロジェクトは1962年にヴィーラント・ワーグナーの演出で制作されたもので、指揮を担当したカール・ベームは主役の2人にビルギット・ニルソンとヴォルフガング・ヴィントガッセンの起用を求めたという。
この2人は初年度から高い評価を得て、幸いなことにその演奏の収録が行なわれていたが、本盤に収められた最後の1966年盤が言うまでもなく1967年度レコード・アカデミー大賞を受賞した伝説的な名盤である。
主役2人の演唱も圧倒的だが、演奏もすばらしい。
ベームによる贅肉をそぎ落とした引き締まった響きと速めのテンポは、この作品の内包するエロティシズムとは無縁のものながら、聴くたびに圧倒される白熱的な名演奏である。
ベームは、バイロイトにもたびたび登場し、ワーグナーのツボを心得た指揮者である。
一世代前の、フルトヴェングラーやクナッパーツブッシュのような重厚壮大な「重さ」とは一線を画するものであるが、ワーグナー演奏としてけっして場違いな印象はなく、むしろ戦後のバイロイトが築いた頂点のひとつであり、「ヴィーラントによるバイロイト様式の完成」ではないかと思われる。
そして、フルトヴェングラーが深沈とした奥行きの深さ、クライバーがオーケストラのいぶし銀の音色を活かした重厚さを特色とした名演であったのに対して、ベームによる本演奏は、実演ならではのドラマティックで劇的な演奏と言えるのではないだろうか。
そして、学者風でにこりともしない堅物の風貌のベームが、同曲をこれほどまでに官能的に描き出すことができるとは殆ど信じられないほどである。
ベームは、実演でこそ本領を発揮する指揮者と言われたが、本演奏ではその実力を如何なく発揮しており、冒頭の前奏曲からして官能的で熱き歌心が全開だ。
その後も、トゥッティに向けて畳み掛けていくような気迫や緊張感、そして切れば血が吹き出してくるような強靭な生命力に満ち溢れており、全盛期のベームならではのリズミカルな躍動感も健在だ。
テンポは若干速めであるが、隙間風が吹くような箇所は皆無であり、どこをとっても造型の堅固さと充実した響きが支配しているのが素晴らしい。
とりわけ、第2幕のイゾルデ役のニルソンとトリスタン役のヴィントガッセンによる愛の熱唱は、ベームの心を込め抜いた指揮も相俟って、おそらくは同曲演奏史上でも最高峰の名演奏に仕上がっていると言えるところであり、その官能的な美しさといい、はたまたドラマティックな迫力といい、聴いていてただただ圧倒されるのみである。
ニルソンの、イゾルデにふさわしい威容と禁断の愛に苦悩する表現の豊かさは見事なもの。
そして、第3幕終結部の愛と死におけるニルソンによる絶唱は、もはや筆舌には尽くし難い感動を覚えるところだ。
第2幕ではニルソンのスケールの大きさにのみこまれそうなヴィントガッセンも、第3幕で死を目前にしての鬼気迫る熱唱は凄絶というほかない。
これらの主役2人のほか、歌手も総じてすぐれた出来映えで、1960年代に全盛期を迎えた名歌手の饗宴は真に感動的だ。
リマスタリングは24bit/96kHzでおこなわれ、さらにそのハイレゾ音源を収録したBlu-ray-Audioディスクも同梱されているが、できればCDとの抱き合わせではなくブルーレイ単独でリリースして欲しかった。
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