2011年05月19日

クナの「ワルキューレ」(1957年バイロイト・ライヴ)


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ワーグナーの音楽は、寄せては返し、返しては寄せる波の動きを聴き手にイメージさせる点にその特徴がある。

沖合から寄せてきた漣は、みるみるうちに目の前で膨れ上がり、すべてを呑み込んだ後にさっと引いていく。

それが繰り返されると、音楽は巨大な波のうねりと化する。

「ヴォータンの別れ」においても何度となく登場する、海鳴りとともにどっと押し寄せた管弦楽の大波が、洪水のように辺りを浸食しながら轟音をあげて岩にぶつかり、飛沫となって砕け散る様は壮観でさえある。

波に身を委ねて漂っていると、だんだんと気持ちがよくなってくる。

長大な内容と膨大なエネルギーの発散にもかかわらず、ワーグナーの作品に聴き手が独特の心地よさを覚えるのは、そのせいであろう。

クナッパーツブッシュの編み出す音楽は、こうした波のイメージを的確に伝える一方で、大地の底から湧き出る源初的な響きを伴っている。

喜多尾道冬氏も指摘するように、大自然のもつ剥き出しの力を連想させる、その巨大な響きの塊は、人類が地球に登場する遥か以前から存在していたものであり、太古の時代より人類を畏怖させてきた。

クナッパーツブッシュの演奏を聴くことによって自己の存在が震撼するように感じられるのは、じつはDNAを通じて受け継がれてきた、遠い過去の記憶が蘇るせいなのかもしれない。

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