2012年01月17日
バックハウスのベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集(旧盤)
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バックハウスは、実は意外に幅広いレパートリーをもったピアニストであった。
若い頃は"鍵盤の獅子王"と呼ばれた技巧派で、いかなる難曲もさらりと弾いてしまうほどであったが、それが逆に冷たい演奏という印象を与えてもいたようだ。
ピアニスティックなショパンを弾いていたのもその頃であったが、やがて外面的な美を追求することをやめ、作曲家の精神あるいは作品の本質に迫る姿勢に変わって、素朴で武骨な、いかにも男性的な演奏を聴かせるようになった。
そうしたバックハウスの真価が最高度に発揮される場がベートーヴェンであったと考えるのは、決して筆者だけではないだろう。
そして、このピアノ・ソナタ全集は、S=イッセルシュテットと共演したピアノ協奏曲全集と並んで、彼のベートーヴェンの真髄を味わうことのできる録音になっている。
ステレオ録音による新全集と比較すると少し音質は古いが、ここに示された堅固で揺るぎない構成力、重厚で重みのある響き、強靭な集中力の持続、彫りが深く格調の高い造形的美観などは、衰えをみせる前の彼ならではの持ち味であり、それは、このピアニストの本領を鮮やかに伝えているのである。
その表現は威厳のある風格を備えると同時に、優しさを感じさせ、特にこのベートーヴェンには隙のない技巧に加えて、独特の味わいがある。
変にうまそうに弾いたり、媚びたり、小才を利かせたりするところがいっさいなく、ピアニズムを感じさせずに、作曲者の魂が深く重厚に、立体的に、交響的に迫ってくる。
最も偉大で立派な音楽があり、この全集に肉薄し得るのは最晩年のアラウのみであろう。
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