2012年06月24日
N響85周年記念シリーズ:ベートーヴェン:ピアノ協奏曲全集/ウィルヘルム・ケンプ
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ドイツ人ピアニストの巨匠ケンプによるベートーヴェンのピアノ協奏曲全集としては、これまで2つのスタジオ録音が知られていたところだ。
最初の録音は、ケンペン&ベルリン・フィルとともに行った演奏(1953年)であり、2度目の録音は、ライトナー&ベルリン・フィルとの演奏(1961年)である。
このうち、最初のものはモノラル録音であることから、ケンプによるベートーヴェンのピアノ協奏曲全集の代表盤としては、ライトナー&ベルリン・フィルとともに行った演奏を掲げるのが一般的であると考えられるところだ。
そのような中で、今般、最晩年のケンプが来日時にNHK交響楽団とともにライヴ録音した全集が発売される運びとなったのは何と言う幸せなことであろうか。
演奏は1970年ものであり、ケンプが75歳の時のものである。
いずれの楽曲も至高の名演と高く評価したい。
ベートーヴェンのピアノ協奏曲全集の録音は現在でもかなり数多く存在しており、とりわけテクニックなどにおいては本全集よりも優れたものが多数あると言える。
ケンプによる録音に限ってみても、前述の2つのスタジオ録音の方が、テクニックに関しては断然上にあると言えるが、演奏の持つ味わい深さにおいては、本演奏がダントツであると言えるのではないだろうか。
本全集におけるケンプによるピアノ演奏は、例によっていささかも奇を衒うことがない誠実そのものと言える。
ドイツ人ピアニストならではの重厚さも健在であり、全体の造型は極めて堅固である。
また、これらの楽曲を熟知していることに去来する安定感には抜群のものがあり、その穏やかな語り口は朴訥ささえ感じさせるほどだ。
しかしながら、一聴すると何でもないような演奏の各フレーズの端々から漂ってくる滋味に溢れる温かみには抗し難い魅力があると言えるところであり、これは人生の辛酸を舐め尽くした最晩年の巨匠ケンプだけが成し得た圧巻の至芸と言えるだろう。
筆者としては、ケンプの滋味豊かな演奏を聴衆への媚びと決めつけ、厳しさだけが芸術を体現するという某音楽評論家の偏向的な見解には到底賛成し兼ねるところである。
ケンプによる名演もバックハウスによる名演もそれぞれに違った魅力があると言えるところであり、両者の演奏に優劣を付けること自体がナンセンスと考えるものである。
なお、本全集において、巨匠ケンプの至高のピアノ演奏を下支えしているのが、森正率いるNHK交響楽団であるが、ケンプのピアノ演奏に触発されたせいか、ドイツ風の重厚さにもいささかも不足がない名演奏を繰り広げている。
音質は、名指揮者の来日公演の高音質での発売で定評のあるアルトゥスレーベルがマスタリングを手掛けているだけに、本全集においても1970年のライヴ録音としては十分に満足できる良好な音質に仕上がっているのが素晴らしい。
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