2012年06月28日
N響85周年記念シリーズ:シューベルト、ブルックナー/ヴァント
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ヴァントは、1990年代に入ってブルックナーの交響曲の崇高な超名演を成し遂げることによって真の巨匠に上り詰めるに至ったが、1980年代以前のヴァントが未だ世界的な巨匠指揮者としての名声を獲得していない壮年期には、たびたび来日して、NHK交響楽団にも客演を行っていた。
本盤に収められたブルックナーの交響曲第8番及びシューベルトの交響曲第9番「ザ・クレート」は、いずれもヴァントが得意中の得意としたレパートリーであり、NHK交響楽団に客演した際のコンサートの貴重な記録でもある。
まずは、シューベルトの交響曲第9番「ザ・グレート」であるが、演奏は1979年のもの。
ヴァントは、ワルターのようにウィーンの抒情的な作曲家としてシューベルトを捉えるのではなく、むしろ、自らが得意としたブルックナーの先駆者としてシューベルトを捉えて演奏を行っているとも言えるだろう。
比較的ゆったりとしたテンポによる演奏ではあるが、演奏全体の造型は他の指揮者によるどの演奏よりも堅固であり、いささかも隙間風の吹かない重厚にして凝縮化された音の堅牢な建造物が構築されたような趣きがある。
もちろん、情感の豊かさを欠いているわけではないが、むしろ演奏全体の造型美や剛毅さが勝った演奏と言えるところだ。
もっとも本演奏には、終楽章において特に顕著であるが、ライヴ録音ならではの畳み掛けていくような気迫と強靭な生命力が漲っており、その意味では、ヴァントの壮年期を代表する名演と評価してもいいのではないだろうか。
次いで、ブルックナーの交響曲第8番であるが、これは1983年の演奏。
ヴァントが未だ世界的なブルックナー指揮者としての名声を獲得していない壮年期の演奏であるだけに、1990年代における神々しいばかりの崇高な名演が誇っていたスケールの大きさや懐の深さはいまだ存在していないと言えるところであり、本盤の演奏を1990年以降の超名演の数々と比較して云々することは容易ではある。
しかしながら、本演奏においても、既にヴァントのブルックナー演奏の特徴でもあるスコアリーディングの緻密さや演奏全体の造型の堅牢さ、そして剛毅さを有しているところであり、後年の数々の名演に至る確かな道程にあることを感じることが可能だ。
また、本盤の演奏においては、こうした全体の堅牢な造型や剛毅さはさることながら、金管楽器を最強奏させるなど各フレーズを徹底的に凝縮化させており、スケールの小ささや金管楽器による先鋭的な音色、細部に至るまでの異常な拘りからくるある種の神経質さがいささか気になるところではあるが、それでも違和感を感じさせるほどでもないというのは、ヴァントがブルックナーの本質を既に鷲掴みにしていたからにほかならない。
そして、本演奏には、ライヴ録音ならではの畳み掛けていくような気迫と生命力が漲っており、その意味では、ケルン放送交響楽団とのスタジオ録音よりも優れた演奏と言っても過言ではあるまい。
いずれにしても、本演奏は、世界的なブルックナー指揮者として世に馳せることになる後年の大巨匠ヴァントを予見させるのに十分な素晴らしい名演と言えよう。
両演奏ともに、ヴァントの剛毅で緻密な指揮にしっかりと喰らい付いていき、持ち得る実力を最大限に発揮した名演奏を披露したNHK交響楽団にも大きな拍手を送りたい。
音質は、1970年代から1980年代にかけてのライヴ録音ではあるが、アルトゥスがマスタリングに協力したこともあって、十分に満足できる良好な音質に仕上がっている。
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