2013年07月01日

ヴァント&北ドイツ放送響のベートーヴェン:交響曲第5番「運命」&第6番「田園」[1992年ライヴ]


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ヴァントといえば、最晩年の神々しいまでの崇高な超名演を成し遂げたこともあって、どうしてもブルックナー指揮者のイメージが付きまとうところだ。

これは、朝比奈にも共通することであると思われるが、ヴァントにしても朝比奈にしても、ブルックナーだけでなく、ベートーヴェンやブラームス、シューベルトの楽曲においても、比類のない名演の数々を成し遂げていることを忘れてはならないだろう。

ヴァントによるベートーヴェンの交響曲の演奏としては、何と言っても1980年代に、手兵北ドイツ放送交響楽団とともにスタジオ録音した唯一の交響曲全集(1984〜1988年)が念頭に浮かぶ。

当該全集以前の演奏もテスタメントなどによって発掘がなされているが、ヴァントのベートーヴェン演奏の代表盤としての地位にはいさかも揺らぎがないと言える。

本盤に収められたベートーヴェンの交響曲第5番及び第6番の演奏は、1992年に北ドイツ放送交響楽団とともにライヴ録音したものである。

本演奏と同様に、前述の全集以降は、第1番〜第4番のライヴ録音も行っただけに、残る第7番〜第9番の録音を果たすことなくこの世を去ってしまったのは極めて残念なことであった。

それはさておき、本盤の演奏も素晴らしい名演だ。

前述の全集も、ヴァントの峻厳な芸風があらわれたいかにもドイツ色の濃厚な名演揃いであったが、いささか厳格に過ぎる造型美や剛毅さが際立っているという点もあって、スケールがいささか小さく感じられたり、無骨に過ぎるという欠点がないとは言えないところだ。

それに対して、本盤の演奏は、おそらくはヴァントの円熟のなせる業であるとも思われるところであるが、全集の演奏と比較すると、堅固な造型の中にも、懐の深さやスケールの雄大さが感じられるところであり、さらにグレードアップした名演に仕上がっていると言えるのではないだろうか。

もちろん、華麗さなどとは無縁の剛毅さや無骨さは相変わらずであるが、それでも一聴すると淡々と流れていく曲想の端々からは、人生の諦観を感じさせるような豊かな情感が滲み出しており、これは、ヴァントが晩年になって漸く到達し得た至高・至純の境地と言えるのではないだろうか。

そして、演奏全体に漂っている古武士のような風格は、まさに晩年のヴァントだけが描出できた崇高な至芸であり、本演奏こそは、ヴァントによるベートーヴェンの交響曲第5番及び第6番の最高の名演と高く評価したい。

音質は、1992年のライヴ録音であるだけに、従来CD盤でも十分に満足できる音質であったが、今般、ついにSACD化されたのは何という素晴らしいことであろうか。

音質の鮮明さ、音場の幅広さのどれをとっても一級品の仕上がりであり、あらためてSACDの潜在能力の高さを思い知った次第だ。

いずれにしても、ヴァントによる至高の名演を、SACDによる極上の高音質で味わうことができるのを大いに歓迎したい。

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早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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