2013年07月02日
アバド&ベルリン・フィルのチャイコフスキー:管弦楽曲集
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これはアバド&ベルリン・フィルが成し遂げた最高の名演の一つと言えるのではないだろうか。
アバドが最も輝いていたのは、ベルリン・フィルの芸術監督に就任する前の1970年代から1980年代にかけて、ロンドン交響楽団やシカゴ交響楽団などと様々な名演を繰り広げていた時期であるというのが大方の見方だ。
ところが、そのようなアバドも、ベルリン・フィルの芸術監督就任後は借りてきた猫のように大人しくなり、一部の例外を除いてはそれまでとは別人のような凡庸な演奏を繰り広げるようになってしまった。
そして、アバドは芸術監督退任直前に大病を患うことになったが、大病克服後は、皮肉にも演奏に深みと凄みが加わり、現代を代表する真の大指揮者としての地位を確立するに至っている。
本盤に収められたチャイコフスキーの管弦楽曲集は、アバドがベルリン・フィルの芸術監督に着任して数年後のライヴ録音(1994〜1996年)であり、まさに前述の低迷期の演奏であると言えるが、本盤の演奏はその例外とも言えるような素晴らしい名演に仕上がっていると高く評価したい。
本盤に収められた楽曲は、幻想曲「テンペスト」を除き、いずれも前任者であるカラヤンがベルリン・フィルとともに名演を成し遂げたものである。
しかしながら、アバドのアプローチはカラヤンとは全く異なるものであると言えるだろう。
カラヤンが、重厚にして華麗ないわゆるカラヤン・サウンドを駆使して、オーケストラ演奏の極致とも言うべき圧倒的な音のドラマを構築したが、アバドの演奏にはそのような重厚さであるとか華麗さなどとは全く無縁である。
むしろ、ベルリン・フィルの各楽器セクションのバランスを重視するとともに、チャイコフスキーの作曲した甘美な旋律の数々を徹底して歌い抜いている。
要は、オーケストラを無理なくバランス良く鳴らすとともに、豊かな歌謡性を付加した美演というのが、本盤のアバドの演奏の特徴である。
そして、このような演奏をベースとして、アバドは、オペラ指揮者において培ってきた演出巧者ぶりを存分に発揮して、各楽曲の聴かせどころのツボを心得た心憎いばかりの明瞭な演奏を展開しているところだ。
もっとも、本演奏は、ライヴ録音ということも多分にあると思うが、楽曲のトゥッティに向けて畳み掛けていくような気迫や強靭な生命力も有していると言えるところであり、前述のようにカラヤンによる重厚な演奏とはその性格を大きく異にするものの、剛柔のバランスにおいてもいささかも不足はないと言える。
いずれにしても、本盤の演奏は、必ずしも順風満帆とはいかなかったアバド&ベルリン・フィルが成し遂げた数少ない名演として高く評価したい。
音質については、本従来CD盤でも十分に良好なものであるが、先日発売されたSHM−CD盤は、若干ではあるが音質が鮮明になるとともに、音場が幅広くなったように思われる。
アバドによる素晴らしい名演をより鮮明な音質で味わいたいという聴き手には、SHM−CD盤の方の購入をお薦めしておきたい。
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