2013年08月07日
エマールのリスト・プロジェクト
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エマールが、リスト生誕200年を記念して2晩にわたって行ったコンサートのライヴ録音。
本盤には「ザ・リスト・プロジェクト」との標題が付されているが、収められている楽曲はリストの諸作品にとどまらず、リストの影響が見られる作品が含まれているとともに、それらを交互に配するというきわめて独創的なアルバムとなっているのが特徴である。
このような意表を衝くコンサートの演目の構成を行ったのは、いかにも近現代音楽を得意とするエマールならではの抜群のセンスの良さであると言える。
そして演奏内容も素晴らしい。
前述のように、2012年はリスト生誕200年ということもあって、様々なピアニストによるリストのピアノ作品集が発売されているが、本盤はその中でも最右翼に掲げられるものではないだろうか。
ディスク1においては、ワーグナーの死を予感して作曲された「悲しみのゴンドラ」で開始されるという尋常ならざる演目構成に驚かされるが、その演奏の彫りの深さ、そして演奏の持つ高踏的な美しさには抗し難い魅力が満ち溢れている。
その後は、リストの「灰色の雲」や「凶星」を挟んで、ワーグナー、ベルク、スクリャービンの各ピアノ・ソナタを配列するという演目構成の何という巧みさ。
いずれの楽曲も決して明るいものではないが、エマールの場合は深刻で重々しくなることはなく、音楽は滔々と淀みなく流れるとともに、センス満点の味わい深さをいささかも失わないのが素晴らしい。
そして、スコアに記された音符の表層をなぞっただけの美しさにとどまらず、楽曲の心眼を鋭く抉り出していくような奥行きの深さも健在であり、知情兼備の名演に仕上がっていると評価したい。
リストのピアノ・ソナタロ短調は凄い演奏だ。
超絶的な技量を要する楽曲であるが、エマールの演奏を聴いているといわゆる技巧臭をいささかも感じさせず、ただただ音楽の美しさ、素晴らしさのみが伝わってくるのが見事というほかはない。
随所に聴くことが可能な強靭な打鍵などは圧倒的な迫力を誇ってはいるものの、エマールの場合は、そのような箇所においても独特の洒落た味わいに満ち溢れた美しさを失うことがないのが素晴らしい。
おそらくは、同曲演奏史上でも、美しさや味わい深さにおいてはトップの座を争う至高の超名演と評価しても過言ではあるまい。
ディスク2は、ディスク1の延長線上にある楽曲として、重くて暗いリストの「エステ荘の糸杉に−哀歌」で開始されるが、その後は、バルトークやラヴェルなどの諸作品を経て、メシアンの『鳥のカタログ』からの抜粋である「カオグロヒタキ」、そしてリストの「オーベルマンの谷」という、崇高な美しさを湛えた楽曲に繋げていくという巧みな演目構成にはただただ圧倒されるのみである。
いずれの楽曲も彫りの深い表現とともに、エマールならではのフランス風のエスプリ漂う瀟洒な味わいと優美さを湛えており、いい意味での剛柔バランスのとれた素晴らしい名演に仕上がっていると評価したい。
音質は、ウィーン、コンツェルトハウスの豊かな残響を生かしたものであり、SHM−CD仕様であることもあって、エマールのピアノタッチが鮮明に再現されるなど、十分に満足できる高音質である。
いずれにしても、本盤は、カップリングの抜群のセンスの良さ、そして演奏内容の素晴らしさにおいて非の打ちどころがないものであり、リスト生誕200年を記念して発売されたCDの中ではダントツに優れた至高の名ディスクと高く評価したい。
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