2013年11月01日
ケンプのベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集(旧盤)
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ケンプは2つの「ベートーヴェン・ピアノ・ソナタ全集」を完成したが、その一つが、このモノーラル盤で、1950〜51、56年の録音。
技巧的には最盛期とも言える時期の演奏で、後年の録音よりも情緒的には濃密であり、殊に中期の作品の精力的な表現を高く評価したい。
戦前と晩年の中間に位置しているが、内容的にもその通りと言えるところであり、人によっては、ステレオ録音よりこのほうを高く評価するかも知れないが、筆者は両方を座右に置きたいと思う。
本全集におけるケンプのピアノは、いささかも奇を衒うことがない誠実そのものと言える。
ドイツ人ピアニストならではの重厚さも健在であり、全体の造型は極めて堅固である。
また、これらの楽曲を熟知していることに去来する安定感には抜群のものがあり、その穏やかな語り口は朴訥ささえ感じさせるほどだ。
しかしながら、一聴すると何でもないような演奏の各フレーズの端々から漂ってくる滋味に溢れる温かみには抗し難い魅力があると言えるところであり、これは人生の辛酸を舐め尽くした巨匠ケンプだけが成し得た圧巻の至芸と言えるだろう。
同時期に活躍していた同じドイツ人ピアニストとしてバックハウスが存在し、かつては我が国でも両者の演奏の優劣についての論争が繰り広げられたものであった。
現在では、とある影響力の大きい某音楽評論家による酷評によって、ケンプの演奏はバックハウスを引き合いに著しく貶められているところである。
確かに、某音楽評論家が激賞するバックハウスによるベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集についてはいずれの楽曲も素晴らしい名演であり、筆者としてもたまに聴くと深い感動を覚えるのであるが、体調が悪いとあのような峻厳な演奏に聴き疲れすることがあるのも事実である。
これに対して、ケンプの演奏にはそのようなことはなく、どのような体調であっても、安心して音楽そのものの魅力を味わうことができるのである。
筆者としては、ケンプの滋味豊かな演奏を聴衆への媚びと決めつけ、厳しさだけが芸術を体現するという某音楽評論家の偏向的な見解には到底賛成し兼ねるところである。
ケンプによる名演もバックハウスによる名演もそれぞれに違った魅力があると言えるところであり、両者の演奏に優劣を付けること自体がナンセンスと考えるものである。
録音はモノーラルだが、十分に観賞に耐え得る満足できる音質だと思う。
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