2013年11月14日
グリモーのモーツァルト:ピアノ協奏曲第19番、第23番、他
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昨今においてますます進境著しいエレーヌ・グリモーであるが、意外にもモーツァルトの楽曲については殆ど録音を行っていない。
ラフマニノフのピアノ・ソナタ第2番を2度も録音していることなどに鑑みれば、実に不思議なことである。
本盤に収められたモーツァルトのピアノ協奏曲第19番及び第23番についても、グリモーによるモーツァルトのピアノ協奏曲初の録音であるのみならず、モーツァルトの楽曲としても、ピアノ・ソナタ第8番の演奏(2010年)以来、2度目の録音ということになる。
ピアノ・ソナタ第8番については、モーツァルトを殆ど演奏していないグリモーだけに、他のピアニストによる演奏とはまるで異なる、いわゆる崩した個性的な演奏を繰り広げていたが、グリモーの心の込め方が尋常ならざるレベルに達しているため、非常に説得力のある名演に仕上がっていた。
それだけに、本盤のピアノ協奏曲においても、前述のピアノ・ソナタ第8番の演奏で聴かれたような超個性的な表現を期待したのであるが、見事に肩透かしを喰わされてしまった。
カデンツァにおける即興性溢れる演奏には、そうした個性の片鱗は感じさせるものの、演奏全体の基本的なアプローチとしては、グリモーはオーソドックスな演奏に徹している。
グリモーのピアノ演奏は、ラフマニノフのピアノ・ソナタ第2番を得意のレパートリーとしていることからも窺い知ることができるように、力強い打鍵から繊細な抒情に至るまで、表現の起伏の幅が桁外れに広いスケールの大きさを特徴としている。
とりわけ、力強い打鍵は、男性ピアニスト顔負けの強靭さを誇っているとさえ言えるところである。
ところが、本演奏においては、モーツァルトのピアノ協奏曲だけに、むしろ、楽曲の随所に盛り込まれた繊細な抒情に満ち溢れた名旋律の数々を、女流ピアニストならではの清澄な美しさを保ちつつ心を込めて歌い抜くことに主眼を置いているように思われる。
そして、モーツァルトの楽曲に特有の、各旋律の端々から滲み出してくる独特の寂寥感の描出についてもいささかも不足はない。
加えて、グリモーが素晴らしいのは、これは濃厚な表情づけを行ったピアノ・ソナタ第8番の演奏の場合と同様であるが、感情移入のあまり感傷的で陳腐なロマンティシズムに陥るということは薬にしたくもなく、どこをとっても格調の高さを失っていない点である。
このように、本盤の演奏は総じてオーソドックスな様相の演奏であるが、前述のような繊細にして清澄な美しさ、そしていささかも格調の高さを失うことがない心の込め方など、グリモーならではの美質も随所に盛り込まれており、バイエルン放送室内管弦楽団による好パフォーマンスも相俟って、まさに珠玉の名演に仕上がっていると高く評価したい。
併録のレチタティーヴォ「どうしてあなたが忘れられるでしょうか?」とアリア「心配しなくともよいのです、愛する人よ」については、グリモーの透明感溢れる美しいピアノ演奏と、モイツァ・エルトマンの美声が相俟った美しさの極みとも言うべき素晴らしい名演だ。
音質についても、2011年のライヴ録音であるとともに、ピアノとの相性抜群のSHM−CD盤での発売であることから、グリモーのピアノタッチがより鮮明に再現されるなど、申し分のないものであると高く評価したい。
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