2014年01月30日
トスカニーニ&NBC響/唯一のステレオ録音
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トスカニーニの唯一のステレオ録音であり、最後の公開演奏録音である。
チャイコフスキー「悲愴」交響曲は1954年3月21日の演奏、ワーグナー・プログラムが4月4日の文字通りの最後の公開公演でいずれもカーネギーホールでの収録である。
この間、トスカニーニは3月25日に87歳の誕生日を迎えている。
演奏会は全米にラジオで実況中継されているが、これとは別にステレオによる録音記録が残されていた。
この最後の演奏会での悲劇の実際は、諸石幸生氏の著作(音楽之友社)に詳しい。
トスカニーニはすでに記憶障害に悩んでおり、1953−54年シーズンの契約も不承不承であったという。
悲劇はすでに前日のリハーサルに起こっていた。
だから本番当日でのトラブルは予測されており、指揮者が立ち往生した際も混乱のなかで何とか演奏は続けられた。
このCDを聴くと、トラブルのあった「タンホイザー」序曲のバッカナーレで、ソロが不安げに揺らぎテンポが異様に落ちてあてもなくさまようのが感じ取れるが、中断はしない。
終末の和音が不自然なのは、修正の痕跡というよりは録音上のミスではないかと思う。
演奏は中断したとか、緊急のアナウンスが入り、ブラームスの交響曲に切り替わったとかの話が流布しているのは、前日のリハーサルの録音が実存していることや、本番での実況放送を録音した私家版のせいらしい。
実際には演奏は混乱しつつも続けられたというのが真相だ。
ステレオの効果は驚くほど顕著だ。
常識的な予想に反して、悲劇のワーグナー・プログラムのほうが俄然良い。
その音の官能的なことと豊麗豊饒な厚みは驚愕的だ。
伝説のスタジオ8Hの砂漠のような音質で、NBC響はずいぶんと誤解されている。
この録音を聴くと、金に飽かせず名人を選りすぐりストラディバリウスだけでも8台持っていたというこのオーケストラの豊かな音の実像にようやくたどり着いたという実感で心がいっぱいになる。
これに比べると「悲愴」のステレオ録音は音が希薄で虚弱な印象が否めない。
最晩年の衰えのせいなのか、録音技術の未熟さのせいなのかはよくわからない。
しかし、1947年の不滅の超名演には並ぶべくもない。
テクノロジーが芸術価値を伝えきれないことはあっても、もともと無いものを補充し逆転させることはない。
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