2014年03月15日
インバル&フランクフルト放送響のマーラー:交響曲第10番(D.クック復元版)
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インバルは、今や押しも押されぬ世界最高のマーラー指揮者であると言える偉大な存在であるが、現在におけるそうした地位を築くにあたっての土台となったのは、何と言っても1980年代に、当時の手兵であるフランクフルト放送交響楽団とともにスタジオ録音を行ったマーラーの交響曲全集(1985年〜1988年)である。
当該全集は、CD時代が到来し、マーラーブームとなっていた当時にあって、最も規範的な全集として識者の間でも極めて高いものであったところだ。
当該全集において、インバルは交響曲第10番を収録していたが、それは全曲ではなく、アダージョのみの録音であった。
インバルは、当該全集におけるスコアを精緻に、そして丁寧に描き出していくという普遍的とも言えるアプローチからしても、第10番については、マーラーが実際に作曲したアダージョにしか関心を示さないのではないかとも考えられたところであるが、当該全集の完成後4年ほどしてから、ついに、第10番の全曲版をスタジオ録音することになった(本盤)。
第10番については、既に様々な版が存在しているが、本演奏では、最も一般的なクック版(ただし第2稿であるが)が採用されている。
その意味では、インバル自身にも、版については特段の拘りがないと言えるのかもしれない。
インバルは、近年では東京都交響楽団やチェコ・フィルなどとともに、マーラーの交響曲の再録音を行っているところであるが、今後、第10番の再録音を行う際には、どのような版を使用するのか大変興味深いところだ。
本演奏のアプローチは、全集と同様に、スコアを忠実に音化していくという、近年のマーラーの交響曲演奏にも繋がっていくものであり、バーンスタインやテンシュテットなどが個性的な名演の数々を成し遂げている時代にあっては、希少な存在であったとも言える。
昨今のインバルのマーラーの交響曲演奏に際してのアプローチは、この当時と比較すると、思い切ったテンポの振幅を施すなど、全体の造型を蔑ろにしない範囲において、より劇的な解釈を施すようになってきているだけに、本演奏における精緻にして正統的とも言えるアプローチは、極めて貴重なものとも言えるだろう。
もちろん、楽譜に忠実と言っても、無味乾燥な演奏には決して陥っていないのがインバルの素晴らしいところであり、どこをとっても、秘められたパッションの燃焼度には尋常ならざるものがある。
まさに、血が通った演奏であり、これは、インバルのマーラーの交響曲に対する深い理解と愛着の賜物に他ならない。
いずれにしても、本演奏は、いまや稀代のマーラー指揮者として君臨するインバルの芸術の出発点とも言うべき素晴らしい名演と高く評価したい。
なお、前述のように本演奏はクック版第2稿によっているが、今後、インバルがチェコ・フィルまたは東京都響と同曲を録音する際には、クック版第3稿またはその他の稿による演奏を期待したい。
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