2014年05月23日
フルトヴェングラーのモーツァルト:歌劇「ドン・ジョヴァンニ」 (1953年盤)
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フルトヴェングラーの、モーツァルト「ドン・ジョヴァンニ」の有名な1953年のザルツブルク音楽祭の収録。
数回にわたり、録音し、たとえばEMIの1954年、1950年のものもあり、1954年のものは収録時など未詳だが、カラーでフルトヴェングラーの別録りされた序曲を見ることもできる初のオペラ映画ともなり、ステージの雰囲気を残しながら、その後の映像の規範となった。
フルトヴェングラーの「ドン・ジョヴァンニ」の毒、それは重く粘るテンポ、デモーニッシュなものに対応する再ロマン化の試みである。
一聴、演奏の性質は理解されるのは、20世紀、ロマン派以降の音楽が見つめたロマンの性格をまとったドン・ジョヴァンニ像。
マーラーは地獄堕ちの場で、終わらせる試みをして、古典の伝統を保持しようとしたブラームスも絶賛したのはその圧倒的な表現力であった。
ドラマ・ジョコーソ、音楽のためのおどけたドラマであることの証であるヴォードヴィル風のラスト「これが悪人の最後だ。そして非道なものたちの死は、いつでも生とは同じものなのだ」。
ロマンは、ここに偉大な教育パパであったレオポルドの存在と抗ったモーツァルトを重ね合わせ、権威に向かって「ノー」を貫く矜持をみた。
実際、これが喜劇である前に地獄堕ちの場は圧倒的な効果をもたらす。
フルトヴェングラーの映像での演出は、まさに宇宙が現出する。
オッフェンバックの「ホフマン物語」はオムニバスだが、さまざまなE.T.A.ホフマンの諸編をつなぎ合わせて、やはり、楽屋落ち的に「ドン・ジョヴァンニ」の引用がされた。
それは『ドン・ファン』のモチーフに同じで、実際、舞台では恋愛巧者でどん欲に恋愛のカタログの数を積み上げていったドン・ジョヴァンニの試みはすべて失敗に終わるのである。
モーツァルトは巧みに心理にまで踏み込んだ音楽で積み上げたが、それは舞台人としてだけではなく、教養人としてダ・ポンテのシナリオの文学的にも周到な読みがあったと思われる。
当盤は、そのロマン化の徹底を貫いたフルトヴェングラー盤の中でも音質も満足いくもの。
よりロマンを感じるには1954年盤だろう。
音楽が運ばれる必然性、テンポということでは、この重いテンポは幾つかの齟齬をきたしている。
すでに、現代の耳で聴く分にはウィーン初演版をとりあげたガーディナーや、エストマンの小劇場、さらに少人数という芝居小屋の雰囲気が満載のものなどがある。
クイケン、アーノンクールなどピリオド楽器が見出したもの、また、重さでは共通するカラヤンが晩年になり、初めて録音したものは、歌手の年齢層にも考慮され、オペラ巧者のウィーン・フィルではなくシンフォニック・オーケストラであるベルリン・フィルを起用した。
アバドも1997年に録音し、これらはモダンがピリオド楽器の斬新の一方、呼吸が浅く、軽妙なドン・ジョヴァンニ像とは対極のものとしてまだモダンの方向も有効なことを示している。
実際、モーツァルト畢生の大作として、モダンは多くの演奏を制作してきた。
ジュリーニ、クレンペラー、ベーム、ムーティ、クリップス、ショルティみな一家言あるものだ。
ワルターの伝説のメト・ライヴ、またすでに1936年のブッシュ盤には古典的な端正がすでにあった。
しかし、「フィガロ」や「コシ・ファン・トゥッテ」では最良の成果をあげたベームでも、「ドン・ジョヴァンニ」(プラハ盤)のフィッシャー=ディースカウは、その知が鼻につき、モーツァルト録音中、一級の録音とはいえない。
モーツァルトのオペラのどの作を最上のものとするかはしばしば論議され、そして、そんな比較などはやるべきではないのだが、ドラマ性では筆頭なのが「ドン・ジョヴァンニ」。
このフルトヴェングラー盤が今でも、そのドラマ性の齟齬と重く粘るロマンがモーツァルトの本質とは乖離している面があっても、珍重されるのは、その表現が徹底されているからだ。
加えて、シェピとエーデルマンのコンビ、これを一人の人物のコインの裏表という心理的な読みもあるが、1950年代、その歌手のもつ、雰囲気と濃厚なものへの対応。
時代的には、ロマンというには20世紀とはすでに表現主義が跋扈している状態。
だからこそ、ロマンへの回帰なのだ。
他、シュヴァルツコップのドンナ・エルヴィーラ、グリュンマーのドンナ・アンナの女声陣。
たとえばシェピはよりウィーン的なクリップス盤にも登場しているが、歌そのものはよくても、指揮の牽引の力は弱い。
重量の重さ、それは聴き手にとっても、時代の嗜好というフィルターを経て、それでも淘汰されずに生き残ったこと。
やはり往年の演奏のもっていた多少強引でも柄の大きさは得がたく、本作は、そうした濃厚さを今も讃えるものである。
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