2014年07月07日
ボレットのシューベルト:ピアノ・ソナタ第20番&第14番
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1990年10月18日に75歳で亡くなったボレットの唯一のシューベルト/ソナタ録音である。
世の中には不遇の扱いを受けて、廃盤となってしまう名盤も多いが、このボレットのシューベルトもそんな1枚であった。
それが、英デッカの廉価シリーズからあっさり復活してしまい、突然、安価で簡単に入手できるようにになった。
時々不思議さを感じてしまう。
この復刻する、しない、という線引きは、一体どのような経緯で決まるものなのだろうか?
とはいえ、本当に素晴らしいこのディスクが市場に再登場したことを心から歓迎したい。
ホルヘ・ボレット(Jorge Bolet 1914-1990)は1978年、64歳になって英デッカと契約し、その後の録音活動を通じてやっとファンに知られるようになった。
それ以前の経歴は少し変わっていて、生まれはキューバであるが、米陸軍に所属し、進駐軍の一員として日本に来ている。
ピアニストとしてのボレットは、リストの弟子であるモーリツ・ローゼンタール(Moriz Rosenthal 1862-1946)に師事しており、ボレットは「リストの直系の弟子」ということになる。
ボレットのピアニストとしての主だった活躍が晩年となった理由について、筆者が読んだ資料では「米国内で、批評家から芳しい評価を受けることがなかったため」とあった。
それが本当かどうか知らないが、この素晴らしいシューベルトを聴くと「批評家受けしない」ことなど、本当にどうでもいいことなのだと思う。
それでも、彼を発掘して録音活動にこぎつけた英デッカのスタッフには感謝したい。
ここに聴くボレットは、老練にして孤高の境地を示すかのような演奏であり、純粋無比の美しさが実に印象深いシューベルトである。
彼の演奏は率直そのもので、その痛切な響きは、表現が率直であればあるほど胸を打つ。
第20番はまず、冒頭の和音の素晴らしい響きでたちまち心を奪われる。
続いて、的確な間合い、風合いを保ちながら、呼吸するように和音を鳴らし、細やかな音階が輝く。
なんと結晶化した美麗な響きであろうか。
シューベルトの晩年のソナタに呼応するような、歌と哲学の邂逅を感じてしまう。
特にこの第1楽章は本当に素敵だ。
第2楽章は雪に凍った大地をゆっくりと踏みしめて歩くようであり、ややゆったりしたテンポだが、弛緩がなく、一つ一つの音が十分過ぎるほどの情感を湛えて響く。
本当に心の深いところから湧き出た音楽性が、鍵盤の上に表出しているのだと実感する。
この第1、2楽章が白眉だろう。
繊細なタッチにより、誇張のない表現でありながら、滋味豊かで心のこもったその演奏には、心を打たれる。
第14番も同様の見事な名演だ。
厳かな雰囲気を引き出した演奏内容で、全ての音に魂があるように聴こえてくる。
終楽章はスピーディーではないけれど、内省的なパワーを感じさせて、凛々しいサウンドで内容の濃い音楽になっている。
ボレットのシューベルトは決して入念に1音1音紡いでゆくというものではないが、楽譜の読み込みそのものは実に深い。
リストからは想像もできないほど浅く軽いタッチで、誇張のないデリケートなアゴーギクが表現に深いひだを印す。
感傷性を排したスケールの大きな演奏は前時代的にして壮大な「ロマン性」を伝えている。
ボレット亡き今となってはかなわぬことだが、ボレットの弾くシューベルトをもっと聴きたかったものだ。
あらためてこの不滅の名盤の復刻を大いに祝福したい。
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