2014年07月07日
ボレットのドビュッシー:16の前奏曲
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1989年9月 サンフランシスコ、デーヴィス・シンフォニー・ホールに於ける録音で、ボレット最晩年にして、初のドビュッシーとなったもの。
キューバの名ピアニストで、リストやショパン、ラフマニノフなどの超絶技巧の名手として知られるホルヘ・ボレットが死の前年に残した ドビュッシーである。
ドビュッシーの全2巻・24曲ある前奏曲から16曲をピックアップして、独自の曲順で並び替え収録したアルバム。
こだわりのピアニストが愛用することで知られるベヒシュタインを使い、生涯に渡って美しい音色を追求した彼の魅力がたっぷり詰まった仕上がりになっている。
低音から高音、弱音から強音まで、ひたすら耳に心地良い美音が連続し、これほど美しい「前奏曲集」は他にないと言えるところであり、まさに宝石のような、精巧な工芸品を見るかのようだ。
このように書くと、表面的な演奏のように思われるかもしれないが、決してそのようなことはない。
旋律の歌わせ方、リズムの感覚など、実に惚れ惚れとする演奏で、これは全曲盤で残してほしかったと思わせる出来映えだ。
ドビュッシーの音楽はボレットの持ち味とされる19世紀的なグランド・マナーとは対極にあると言ってよいが、ドビュッシーの音楽での自らの新しい表現領域を開拓することに成功した。
ドビュッシーのリズムは予見される進行をしばしば離れるため、豊かでデリケートな情報をもたらす可能性があるが、彼はその可能性を実に綿密に検討しながら柔軟性に満ちた時間を生み出し、暖かい魅力をもった色彩感を醸し出している。
70歳を遥かに超えてなお毅然とした音楽をつくりあげるボレット。
美音を鳴り響かせ官能に耽溺することなく、節約された身振りの中に注意深く音が配置される。
この古典的なドビュッシーはムード音楽からは遠く隔たった場所に位置している。
「1回のレコーディングより100回のコンサートを行う方が良い」と語り、またレコーディングでもジャケットとタイを手放すことのなかったという気難しいボレットであったが、この16曲の選ばれたこの前奏曲集は、驚くほど明るい音色と、繊細なタッチで、ドビュッシーの音楽の持つ色彩感と柔らかさを表現している。
使用ピアノは、スタインウェイではなくボールドウィンSD-10(アラウも愛用していた)。
今はあまり使われない楽器だが、深い音色が特徴の「知る人ぞ知る」銘器である。
ボレットにとってはもしかしたら不本意な録音だったのかもしれないが、この詩情溢れた演奏には何も文句のつけようがない。
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