2014年07月13日
ケーゲルのJ.S.バッハ:音楽の捧げ物(H.ベルナーによる新版)
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旧東独の鬼才、ヘルベルト・ケーゲルが、ライプツィヒ放送響のメンバーを駆使して行ったスタジオ録音、バッハ「音楽の捧げ物」が初のソフト化。
ケーゲルのバッハ演奏そのものが極めて珍しく、ほぼ10日を費やしてなされた当録音は、ヘルマン・ベルナーによる新版であり、自由に曲順が変更されている上に、パウル・デッサウ編曲のカノンが5曲も含まれ、最後はウェーベルン編曲による大オーケストラのための壮麗な6声のリチェルカーレで締めくくられる。
亡くなってかなり経つというのに次々と未発表録音が現れるケーゲルであるが、「音楽の捧げ物」をオーケストラで録音している演奏というとどうしても興味が引かれる。
多彩な楽器編成で、この曲の最も面白い表現の一つだろうが、それ以上に内容も豊かな演奏。
おそらく「音楽の捧げ物」の演奏史上、最も凝ったものの一つであるこの企画が、アイディアのごった煮にならずに、説得力を獲得できたのは、硬派の雄ケーゲルならではの筋金入りの音楽作りがあったればこそ。
どんな衣装を着せても揺らぐことのないバッハの凄さと、ケーゲルの底力を思い知らされた。
これは、まぁ何とも深くて楽しいJ.S.バッハで、このバッハを聴き始めたときに、機械が壊れたのかと思った。
主題をフリューゲル・ピアノフォルテで演奏されていたのだ!
このフリューゲル・ピアノフォルテは、ポツダムのサンスーシ宮殿にある楽器が使われているそうで、初めて耳にしたピアノともチェンバロともつかないとても心持良い美しい音色である。
しかし再生装置の質によって、壊れたピアノの音に聴える可能性も否定できないと思った。
筆者の装置では、透明感を伴った美しい音が出てきて、その後の展開も聴かせる。
その後、室内楽編成(1曲オルガンもある)による王の主題によるカノン、無限ソナタなどがが続き、フルート、ヴァイオリン、チェロ、チェンバロという普通の編成のトリオ・ソナタが中心に奏される。
ここまでもなかなか緊張感に富んだ演奏なのだが、圧巻はオーケストラによる後半で、デッサウ編曲の王の主題によるカノンが5曲収録されている。
管楽器のソロを中心とした編曲であり、通常聴くバッハの響きからはほど遠いが、各声部の動きは手に取るように分かり、あらためて内容の豊かさに驚かされる。
最後を飾る6声のリチェルカーレはウェーベルン編曲版で、これが物凄い演奏になっている。
このコンビならではの淡々と音を置いているだけのようでありながら、何故か熱くなっていく演奏で、美しく感動的に終える。
特にこのウェーベルン編曲の6声のリチェルカーレの感動的な演奏は是非聴いていただきたい。
現在はピリオド奏法の演奏が多いわけだが、現代の楽器で演奏するバッハとしては、非常に面白い試みを数多く行っている演奏である。
編曲も面白いし、デッサウ、ウェーベルンの曲も自然に繋がっていく非常に面白い演奏
だ。
全身の力が抜け、喜びとも感謝とも悲しさともつかない感情が湧き上ってくる。
それにしてもケーゲルという指揮者は、果敢に新しい表現にチャレンジしていたのだなぁと思わせる録音だ。
これは立派なことには違いないし、彼の活躍した時代背景とキャリアを考えると深い感慨を覚えずにはいられない。
フィギュアスケートのカテリーナ・ビットもそうだったらしいが、ケーゲルもベルリンの壁の崩壊後であっても「社会主義者」であることを誇りにしていたという。
彼の考える社会主義の中身が問題になろうが、非常に倫理的な人間であったことは想像できる。
そんな音楽の周辺をも再考させる、ある意味「際物」寸前、しかし大変真摯なバッハである。
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