2022年11月20日
デビュー直後のチョン・キョンファ👩🏻🎨時宜を得て行った稀代の名演奏⚡プレヴィンの好パフォーマンス👏チャイコフスキー&シベリウス:ヴァイオリン協奏曲🎻
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近年では、その活動も低調なチョン・キョンファであるが、本盤に収められたチャイコフスキー&シベリウスのヴァイオリン協奏曲の演奏は、22歳という若き日のもの。
次代を担う気鋭の女流ヴァイオリニストとして、これから世界に羽ばたいて行こうとしていた時期のものだ。
チョン・キョンファは、シベリウスのヴァイオリン協奏曲については本演奏の後は1度も録音を行っていない。
他方、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲については、ジュリーニ&ベルリン・フィルとの演奏(1973年ライヴ録音)、デュトワ&モントリオール交響楽団との演奏(1981年スタジオ録音)の2種の録音が存在している。
両曲のうち、ダントツの名演は何と言ってもシベリウスのヴァイオリン協奏曲であろう。
とある影響力のある某音楽評論家が激賞している演奏でもあるが、氏の偏向的な見解に疑問を感じることが多い筆者としても、本演奏に関しては氏の見解に異論なく賛同したい。
シベリウスのヴァイオリン協奏曲の演奏は、なかなかに難しいと言える。
というのも、濃厚な表情づけを行うと、楽曲の持つ北欧風の清涼な雰囲気を大きく損なってしまうことになり兼ねないからだ。
さりとて、あまりにも繊細な表情づけに固執すると、音が痩せると言うか、薄味の演奏に陥ってしまう危険性もあり、この両要素をいかにバランスを保って演奏するのかが鍵になると言えるだろう。
チョン・キョンファによる本ヴァイオリン演奏は、この難しいバランスを見事に保った稀代の名演奏を成し遂げるのに成功していると言っても過言ではあるまい。
北欧の大自然を彷彿とさせるような繊細な抒情の表現など、まさに申し分のない名演奏を展開しているが、それでいていかなる繊細な箇所においても、その演奏には独特のニュアンスが込められているなど内容の濃さをいささかも失っておらず、薄味な箇所は1つとして存在していない。
チョン・キョンファとしても、22歳というこの時だけに可能な演奏であったとも言えるところであり、その後は2度と同曲を録音しようとしていないことに鑑みても、本演奏は会心の出来と考えていたのではないだろうか。
こうしたチョン・キョンファによる至高のヴァイオリン演奏を下支えするとともに、北欧の抒情に満ち溢れた見事な名演奏を展開したプレヴィン&ロンドン交響楽団にも大きな拍手を送りたい。
いずれにしても、本演奏は、チョン・キョンファが時宜を得て行った稀代の名演奏であるとも言えるところであり、プレヴィン&ロンドン交響楽団の好パフォーマンスも相俟って、シベリウスのヴァイオリン協奏曲の演奏史上でもトップの座を争う至高の超名演と高く評価したい。
他方、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲については、ヴィルトゥオーゾ性の発揮と表現力の幅の広さを問われる楽曲であることから、人生経験を積んでより表現力の幅が増した1981年盤や、ライヴ録音ならではの演奏全体に漲る気迫や熱き生命力において1973年盤の方を上位に掲げたい。
むろん、本演奏もチョン・キョンファの卓越した技量と音楽性の高さを窺い知ることが可能な名演と評価するのにいささかの躊躇もするものではない。
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コメント一覧
1. Posted by 小島晶二 2022年11月21日 01:07

2. Posted by 和田 2022年11月21日 01:20
小島さんはズーカーマンの美音がお好きでしょうが、ユダヤ系ひしめく弦楽器奏者に差別や偏見に晒されながら、プレヴィンに見出されたのは大きかったですね。故宇野功芳氏は自著で「シベリウスのコンチェルトの清冽さ、純潔な厳しさ、凛としてデリケートなニュアンスを、チョンぐらい見事に表出した例はない。これは彼女のデビュー盤であるが、最も得意とするチャイコフスキーと組み合わせたところに、キョンファの並々ならぬ自信のほどが知られるのである。確かに彼女は音楽と完全に一体になっている。他にも名盤は多いが、それらは曲とは離れた名技、名表現というのがほとんどだ。ところがチョンの場合は、いったいどこまでが作品の魅力でどこまでがヴァイオリニストの魅力なのかがはっきりしない。彼女をほめればそれがそのまま曲への讃辞になってしまうのである。」との評価は絶大な影響力がありました。チョンのヴァイオリンはスリムに引き締まっていて、聴き手に極度の集中力を要求し、享楽的な要素のほとんど感じられません。一途不可逆なひたむきさは、あるいは最も日本人の感性に適した演奏といえるかもしれません。外面はクールなのですが、内には燃えるような情熱を秘めて、真剣勝負に立ち会うような勢いで曲の核心に迫ります。むしろここではプレヴィンの指揮が、一種の中和剤の役割を果たしているかのようです。刃の上を渡る曲芸や綱渡りを思わせるスリルが、チョンの演奏には確かにあります。
3. Posted by 小島晶二 2022年11月21日 02:06
故宇野氏のチョン贔屓は有名ですね。ズーカーマンは1967年のㇾ―ヴェントリット国際コンクールで同年齢のチョンと同時受賞しているので,両者は腐れ縁ですね。ズーカーマンは大好きなヴァイオリン奏者,彼のデヴュー盤のメンデルスゾーンを聴いて顎が外れる程の感動を受けました。彼も74歳,最近は指揮者に転向した様な感じさえ受けますが,末永く活躍して欲しいマエストロです。彼が<奇跡を見た>と激賞したヴァイオリニストが天才少女の五嶋みどりでした。一方,チョンはプレヴィンの推挙でロンドンでデヴューしますが,<ヌヴ―以来の天才で,技術はハイフェッツ以上>ともてはやされましたね。
4. Posted by 和田 2022年11月21日 06:34
チョン・キョンファは12歳の時にアメリカに渡り、ニューヨークのジュリアード音楽院で、名教師ガラミアンに師事して、1967年レーベントリット・コンクールでピンカス・ズーカーマンと優勝を分けあったのち、演奏活動を始めました。ヴァイオリニストに限ってはかのパガニーニが“魔神”と呼ばれていたことを象徴するように、どうにも性格も悪魔のようなタイプが少なからず存在するような気がするのは偏見でしょうか?パールマンのドキュメンタリーばっかりはもう見ないほうがよかったと未だに後悔しています。ベームも然りです。チョン・キョンファは風貌、弾き方、噂などで受ける印象とは真逆の人物で完全に誤解していました。故宇野氏の著書を読むまでもなく、とても暖かく人間味のある人柄で、サイン会でのファンとの交流も嫌な顔しないばかりか、誤解を恐れずに言えば“おばちゃん”タイプで人懐っこささえ感じました。デビュー当初から彼女の演奏は、一般的に名ヴァイオリニストと呼ばれるための条件、すなわち美しく艶やかな音と高度に磨かれたテクニック、そして楽器を美しく歌わせる情感の豊かさといったのものを備えていることは当然ですが、さらにそれらに加えてその表情に、彼女ならではの燃えさかる火のような情熱を感じさせることが大きな特徴となっています。それはいかなる作品においても、独特の緊張感のある音楽運びとなって現われ、もしかして東洋人ならではと言えそうな、瞑想的で陰影豊かな表情とともに、聴き手を惹きつけずにおかない魅力となっています。1990年代以降になり、結婚して出産すると「子供のためならヴァイオリンをやめてもいい」とファンを心配させましたが、母になり、より柔和で大らかな表情も加わってきて、一段と深い味わいを宿すようになり、ますます充実した演奏を聴かせてくれました。