2014年08月21日
ベームのモーツァルト:レクイエム(新盤)
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モーツァルトのレクイエムは、数々の指揮者の下で演奏されているが、どれもアップテンポで“レクイエム”の意味を表現しているとは思えない。
その点、このCDに収録されているのは、カール・ベームの晩年の指揮によるもので、“モーツァルトのレクイエム”を見事に表現している。
安息を表現する所では、スローテンポで、哀れみを請う所では、静かなテンポで、主を讃える所では、力強いテンポで、罪を許し給える所では、優しいテンポで。
全体的には実にゆったりとしたテンポ、壮大で重厚な音楽が最後まで貫かれている。
アーノンクールの演奏とは対照的でどちらが正しい、どちらが優れているということは考えこまずに、このベームの晩年のモーツァルトの世界に浸るのが良いのであろう。
現代の演奏ではまず聴くことのできない「重さ」と「凄み」が如実に伝わる演奏である。
合唱団員の意気込みも鋭く、「怒りの日」の合唱の咆えること、他の盤では聴けない荒々しさである。
「呪われし者」の類をみないテンポの遅さと男声パートの劇的な表現がかえって今では新鮮に聴こえるし、それに続く女声のソットヴォーチェの箇所が実に生きている。
「涙の日」へ接続し、続くヴァイオリンの前奏が涙を誘い、緊張感あふれる合唱によって絶筆部分が歌われる。
これほど慄き、嘆き、咆哮する「涙の日」の演奏は少ないのではないだろうか。
エディット・マティス(ソプラノ)、ユリア・ハマリ(アルト)、ヴィエスワフ・オフマン(テノール)、カール・リッダーブッシュ(バス)というビッグ・ネームのソリストもまたベームの音楽観に添った歌唱をしている。
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の統一がとれた演奏と、ウィーン国立歌劇場合唱連盟(合唱指揮:ノルベルト・バラッチュ)のメンバーの音楽性の高さが、このアルバムの価値を高めている。
ベームのレクイエムを聴くと、モーツァルトがバッハの宗教曲などのバロック音楽を自分の音楽素養として持ち、続くベートーヴェンやブラームスの音楽に影響を与えたのが分かる解釈である。
そこには軽やかで華やかな天才モーツァルトの姿はなく、人生の儚さに恐れ慄く人間モーツァルトが立っているかのようだ。
カール・ベームは、“モーツァルトのレクイエム”を指揮するために、この世に生を授けたのではないか、とさえ思わせる逸品である。
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