2014年08月28日
ヴァント&ベルリン・ドイツ響のストラヴィンスキー:バレエ組曲「火の鳥」/チャイコフスキー:交響曲第5番
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ヴァント&ベルリン・ドイツ交響楽団との一連のライヴ録音の第2弾が、このたび国内盤、分売化されることになった。
これまで輸入盤で、しかもセットでしか手に入らなかっただけに、クラシック音楽ファンにとってはこの上ない喜びであると言えるだろう。
ヴァントと言えば、長年に渡って音楽監督を務め、その後は名誉指揮者の称号が与えられた北ドイツ放送交響楽団との数々の名演が軸となる存在と言えるが、ベルリン・フィルやミュンヘン・フィル、そしてベルリン・ドイツ交響楽団とも、素晴らしい名演の数々を遺している。
ベルリン・ドイツ交響楽団は、ベルリン・フィルの陰に隠れた存在に甘んじているが、一流の指揮者を迎えた時には、ベルリン・フィルに肉薄するような名演を成し遂げるだけの実力を兼ね備えたオーケストラである。
ましてや、指揮者がヴァントであれば問題はなく、その演奏が悪かろうはずがない。
本盤に収められたチャイコフスキーの交響曲第5番やストラヴィンスキーのバレエ音楽「火の鳥」は、ヴァントの知られざるレパートリーの一つであったが、いずれも素晴らしい名演と高く評価したい。
チャイコフスキーの交響曲第5番については、既に1994年に手兵の北ドイツ放送交響楽団との演奏が発売されていることから、本演奏はその7年前のもの、ヴァントによる2種目の同曲の録音ということになる。
同曲は、チャイコフスキーの数ある交響曲の中でも、その旋律の美しさが際立った名作である。
それ故に、ロシア風の民族色やメランコリックな抒情を歌い上げたものが多いが、本演奏は、それらのあまたの演奏とは大きくその性格を異にしている。
演奏全体の造型は堅固であり、その様相は剛毅にして重厚。
ヴァントは、同曲をロシア音楽ではなく、むしろベートーヴェンやブラームスの交響曲に接するのと同じような姿勢で本演奏に臨んでいるとさえ言えるところだ。
したがって、同曲にロマンティックな抒情を求める聴き手にはいささか無粋に感じるであろうし、無骨とも言えるような印象を受けるが、各旋律の端々からは、人生の諦観を感じさせるような豊かな情感が滲み出していると言えるところであり、これは、ヴァントが晩年になって漸く到達し得た至高・至純の境地と言えるのではないかと考えられるところだ。
そして、演奏全体に漂っている古武士のような風格は、まさに晩年のヴァントだけが描出できた崇高な至芸と言えるところである。
もちろん、チャイコフスキーの交響曲の演奏として、本演奏が唯一無二の存在とは必ずしも言い難いが、それでも立派さにおいては人後に落ちないレベルに達しているとも言えるところであり、筆者としては、本演奏を素晴らしい名演と評価するのにいささかの躊躇をするものではない。
なお、演奏全体の懐の深さという意味においては、1994年の演奏の方を上位に掲げたいが、引き締まった造型美という意味においては本演奏の方がより優れており、後は聴き手の好みの問題と言えるのかもしれない。
他方、ストラヴィンスキーのバレエ音楽「火の鳥」については、バイエルン放送交響楽団とのライヴ録音(1978年)以来、9年ぶりの録音ということになるが、まさに異色の名演と言える。
親しみやすい旋律に満ち溢れるとともに、華麗なオーケストレーションで知られた名作であるが、ヴァントは陳腐なセンチメンタリズムに陥ることなく、そして、常に高踏的な美しさを失うことなく、格調高く曲想を描き出しているのが素晴らしい。
かなり緻密に楽想を描き出しているせいか、他の演奏では聴くことができないような音型を聴き取ることができるのも本演奏の大きなメリットと言える。
同曲の最高の演奏とまでは言えないものの、ヴァントならではの引き締まった名演と評価するのにいささかも躊躇するものではない。
音質は、1987年のライヴ録音であるが、十分に満足できるものである。
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