2014年12月26日
ヴンダーリヒ/ラスト・リサイタル
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本盤には、1966年9月17日、ヴンダーリヒが天に召される9日前のエジンバラでのラスト・リサイタルが収められている。
全体に自信に溢れた歌唱で、それは黄泉の国に響くような悲しい美を湛えているが、なかでも感動的なのは、シューマンの歌曲集《詩人の恋》である。
わずか36歳の若さで事故死したこの不世出のテノールの歌唱は、この曲集の「永遠のスタンダード」として、今日の我々をも魅了してやまない。
前項に述べたように、《詩人の恋》は、恋の始まりから、思い出のすべてを海の底に葬るまでを描いた、ハイネの詩による美しい16曲の連作歌曲である。
シューベルトの《水車屋》の詩人ミューラーがひたすら出来事と心の表層を歌うのに対し、ハイネは若者の内面を描かずにはおれない。
まさに、ロマン気質のシューマン好みではないか。
名曲中の名曲であるだけに、《詩人の恋》は名盤があまた残されているが、最も美しいドイツ語発音と、最も美しいドイツ的唱法を示した名唱は、「忘れ得ぬテノール」とドイツで呼ばれている往年のリリック・テノール、ヴンダーリヒによるもの。
ヴンダーリヒには数種の録音があるが、ピッチの不安や緊張感を残しながら、音楽的感興の豊かさで本盤のライヴ録音を採りたい。
恋の甘い陶酔や憂い、失恋の予感の焦燥から、魂の慟哭までを難なく歌う、こんなに幅広い表現力の声があったろうか。
若い詩人の心の痛み、うずき、甘美な陶酔とほとばしる憧れのすべてを、天与の美声で難なく歌っており、F=ディースカウのスタイルと対極にある理想の《詩人の恋》と言って差し支えあるまい。
ただ天の命ずるままに歌い、声の赴くままに表現し、声が自然に詩人の傷ついた魂を語り出すのだ。
ここでのみずみずしいロマンティシズムと輝かしい声の美しさは、青春のナイーヴな想いを雄弁に語りかけており、その切なくも甘美な世界の魅力の虜となってしまう。
ただし、音質はあまり良くないので、うるさいことを言わなければDG盤のスタジオ録音でも十二分に満足し得る名唱だが、こだわる人はぜひとも本盤を手に入れるべきだと思う。
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