2022年04月22日
訃報、ルプー逝去に伴い代表盤シューベルトの即興曲集でご冥福をお祈りいたします。
この記事をお読みになる前に、人気ブログランキングへワンクリックお願いします。
名ピアニスト、ラドゥ・ルプーが4月17日、スイス、ローザンヌの自宅で息を引き取った。享年76歳。心よりご冥福をお祈りいたします。
ルプーの代表盤、シューベルトの即興曲集は、名旋律の宝庫である。
透明感溢れる清澄さをいささかも失うことなく、親しみやすい旋律が随所に散りばめられており、数々の傑作を遺したシューベルトの名作群の中でも、上位にランクされる傑作であると考える。
ルプーは、並みいる有名ピアニストの中でも、「千人に1人のリリシスト」とも評される美音家を自認しているだけに、このような即興曲集は、最も得意とする作品であり、ピアノの抒情詩人と言われたルプーの、代表的録音のひとつ。
即興曲は構成が不安定で、展開部が異常に長かったり、また無かったり、曲によっては変奏曲の形式をとるものもあるので、構築感を出すのが難しいと思われるが、ルプーの演奏は全体が1つの曲であるかのような見事な構築力であり、またこれほどまでに弱音をコントロールできるピアニストも珍しい。
正確にコントロールされたきらめくような粒立ちの美音に乗せて丁寧に歌われるシューベルトの調べにただ圧倒される。
弱音の美しさは言うに及ばず、フォルテも力強くしかも美しく響き、しかも決して軽くない。
繊細で濃やかなロマンが、全編を覆い、微細な陰影が、得も言われぬメランコリックな雰囲気とリリシズムを醸し出している。
晩年のシューベルトの曲に聴かれる死の影はここではその姿を潜めて、美しい自然の移り変わりを表現するかのような、さわやかな演奏である。
聴いていてあまりに自然に流れるので、テクニック面などどうでもよくなってくるが、聴き手にそうした思いを抱かせることこそ、最高のテクニックの持ち主であるという証左を示している。
この曲の代表的なディスクとしてはリリー・クラウスと内田光子のものがよく知られているが、彼女たちの鮮やかな演奏に比べると、ルプーの演奏は少し系統が違う気がする。
全体に抑えたトーンで派手さでは劣るが、細かいコントラストや全曲を貫く優美さなどでは引けを取らないし、旋律を歌い上げる際の表現も見事。
デリケートさでは内田の方が上だろうが、神経質さが耳につく彼女の演奏と比べるとルプーにはそれが皆無。
我々聴き手が、ゆったりとした気持ちで安心して即興曲集を満喫することができるという意味では、オーソドックスな名演であると高く評価したい。
音質は、従来盤でも、英デッカの録音だけに透明感溢れる十分に満足し得る音質である。
ところで、クラシック音楽情報ならこちらがオススメです。
人気ブログランキング
フルトヴェングラーのCDなら、 フルトヴェングラー鑑賞室。
コメント一覧
1. Posted by 小島晶二 2022年04月23日 20:05

2. Posted by 和田 2022年04月23日 21:11
ルプーは、現代の人気ピアニストの中でもリリシストとしての資質を最高度に具えたひとりでした。シューベルトを手がけた彼は、そこで自己のそうした持ち味を十二分に打ち出し、作品のふくよかな抒情に実に深く多彩なニュアンスを付与することに成功しています。特に、ピアノの響きを柔らかく整え、入念に歌いこんでいます。即興曲、楽興の時は各曲とも実に美しい響きの演奏で、詩的情緒を大切にしながら、てんめんと歌わせているのが特徴です。抒情的表現と劇的表現の幅が極めて大きく、その推移そのものがドラマティックです。シューベルトの小品を、大きな人生を凝縮した、実に味わい深い濃密な表現のメディアとし、深い沈黙に裏打ちされた確固たるものにしたルプーにとって、即興曲以上に腕を振るい得る作品はちょっと見当たりません。この名作は、その情緒豊かで美しい外観の中にシューベルトの不安、苦悩、絶望、諦めなどをも映し出していますが、ルプーの演奏では、そうした一面もが悲しいまでに美しく表現されているのです。自然の振る舞いを会得した、非常に魅力的な演奏です。