2015年03月15日
ミルシテインのバッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ(旧盤)
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バッハの無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータは、作曲されてから約300年が経っているにもかかわらず、今なお世界のヴァイオリニストが弾きこなすのを究極の目標とするというのは殆ど驚異である。
しかも、無伴奏のヴァイオリン曲という分野でも、このバッハの曲を超える作品は未だに存在しておらず、おそらくは、今後とも未来永劫、無伴奏のヴァイオリン曲の最高峰に君臨する至高の作品であり続けるものと思われる。
1つの楽器に可能な限り有効な音を詰め込み、表現の極限に挑戦したバッハの意欲的な創作と、調性による曲の性格の違いを明確に描かなければならない難曲でもある。
そのような超名曲だけに、古今東西の著名なヴァイオリニストによって、これまで数多くの名演が生み出されてきた。
そのような千軍万馬の兵たちの中で、ミルシテイン盤はどのような特徴があるのだろうか。
本盤は、ミルシテインにとって最初の録音であるが、先ず特筆すべきは、超人的な名人芸ということになるだろう。
圧倒的な技巧と表現力で演奏された無伴奏で、実に鮮やかとも言うべき抜群のテクニックである。
肉付きの良い音色が、完全に削ぎ落とされ、ソリッドな表現となって聴き手を突き刺す。
もちろん、卓越した技量を全面に打ち出した演奏としてはハイフェッツ盤が掲げられるが、ミルシテインは、技量だけを追求するのではなく、ロマン的とも言うべき独特の詩情に溢れているのが素晴らしい。
非常に快速なテンポで弾き進められて行くが、卓越した技巧に支えられた音色は美しく格調高い。
非人間的な音は1音たりとも発することはなく、どの箇所をとっても、ニュアンス豊かで、詩情豊かな表情づけがなされているのが見事である。
美音と歌心を主体とする優美な演奏のようにも聴こえるが、現代楽器を使用したシャコンヌの変奏の極めつけ。
現代楽器で30の変奏を完璧に描きわけ、かつ主題、動機の変形、装飾音、バスを見事に弾き分けている。
流麗な和声に溺れる「安いバッハ」とは次元が全く違い、「この部分は精神的に」などと戯けたことを発想するレベルでは全く理解不能な音楽で全く見事。
「美しい」という言葉が見当違いと思えるほどあらゆる要素を厳しく追い込んでおり、音の揺れ1つにすら意味がある。
思い入れたっぷりに弾かれた無伴奏より数段楽しめるし、ケーテン時代の作風やそれまでの無伴奏の伝統を考えればミルシテインの方が本来ではないかと思えるのである。
最近話題になったクレーメルによる先鋭的な名演などに比較すると、いかにも旧スタイルの演奏とも言えるが、このような人間的なぬくもりに満ち溢れた名演は、現代においても、そして現代にこそ十分に存在価値があるものと考える。
比類なき技巧と音色美、精神的な深さが見事に同居した稀有のアルバムと言えよう。
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