2015年02月02日

ポリーニのバッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻


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ポリーニはこれまで、古典派から現代音楽まで、手広く手掛けて優れた録音を残しているのは言うまでもないが、それにしてもまさに満を持してのポリーニのバッハである。

ポリーニが無敵のテクニックを誇っていた時代ではなく、キャリアの殆んど終盤近い時期に平均律を録音したことに、彼が長年に渡って温めていた遠大な構想を垣間見る思いがする。

おそらく無限の可能性を持っているために、演奏上の限りない試行錯誤が要求されるこの曲集は、演奏家として、そして何よりも人間として豊富な経験を積んだ今の彼でなければ録音できないことを彼自身が自覚していたに違いない。

それだけに決して野心的な演奏ではなく、むしろ自然体の境地にあるような誇張のない、心を込めた表現が生きている。

ポリーニという芸術家には完璧ともいえるピアノ演奏の技巧を身につけた上で、これまた確かな教養を裏づけとして、レパートリーを決めうち気味に制覇する完全主義的な雰囲気があったので、近年の録音活動の活発化は、まさにファンには歓迎の至りだろう。

ポリーニは、リサイタルではこの平均律クラヴィーア曲集を取り上げてきたが、いつものように研鑽に研鑽を重ねてついに自身納得の行くものと成り得たのがこのアルバムということになる。

これは素晴らしい名演であり、ポリーニとしても会心の名演と言えるだろう。

ポリーニのことなので、冷徹とも言えるようなクリスタルなタッチで、バッハが記したスコアを完璧に再現することに腐心しているのかと思ったが、冒頭の第1曲の、温かみさえ感じさせる柔和なタッチに驚かされた。

24の調で書かれたプレリュードでは音楽の内部から迸り出る個性以外の個性付けは避けているが、曲ごとの特徴を心憎いほど的確に捉えているのも事実だ。

それに続くフーガの各声部は独立しているという以上に自由に解き放たれ、老獪とも言えるペダリングによってまろやかに潤っているが、それでいて全く混濁のない響きと、隙のない緊張感の持続が特徴的だ。

またそれぞれの曲に対する造形美と、曲集全体に与える統一感は彼本来の手法でもある。

リヒテルの平均律が、彼の非凡な創造性とピアノの機能を駆使したデュオニュソス的表現とするなら、ポリーニのそれは総てを秩序のもとに明瞭に奏でたアポロン的な平均律と言えるだろう。

もちろん、スコアリーディングの鋭さについては、いささかの抜かりもないが、近年のポリーニには珍しいくらい、情感溢れる豊かな歌心に満ち溢れている。

そうした歌心の豊かさは、時折聴かれるポリーニの肉声にもあらわれている。

バッハの演奏におけるスタジオ録音で、ピアノとともに、ピアニストの肉声が聴かれる例として、グールドが有名であるが、ポリーニの場合、グールドのような個性的な解釈を売りにしているわけでなく、そのアプローチはあくまでもオーソドックスなもの。

バッハの宇宙をひとつひとつ丁寧に奏しており、作品の構造が手に取るようにわかる。

それでいて、四角四面に陥っていないのは、前述のようなポリーニの豊かな歌心と、この曲に対する深い理解・愛着の賜物であると考える。

楚な佇まいながら細やかな歌心があり、バッハの直裁な音楽がややまろやかに響く。

起伏もあくまでも小さなニュアンスを含んだ歌にとどまっていて、この辺がポリーニというピアニストが天性として持っている芸術性による表現方法なのだろうと思う。

チェンバロに比較し、残響が豊かなピアノの特性を十分に生かしきった心地良いフレーズの数々は生命力に満ち溢れ、ポリーニの確かな洞察力が要所に滲み出ている。

グールド、リヒテル、アファナシエフなどの超個性的な演奏を聴いた後、本盤を聴くと、あたかも故郷に久々に戻ったようなゆったりとした気持ちになるような趣きがあるとも言えるだろう。

グールド以後、一番聴きたくないのは、グールドの亜流である。

仮にグールドの時代なるものがあったとしたら(そんなものはそもそもないのであるが)、それ以後に演奏としてあるのは、もはや、ポリーニのようなスタイルしかないのであろう。

部分的にもう少しなんらかの色があった方がよいと思う箇所もあるとはいえ、これはこれで確かに「ポリーニならでは」の厳しさと音楽の神秘や切なさ、愁いといった情緒も備わったバッハなのだと思う。

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classicalmusic at 20:55コメント(1)トラックバック(0)バッハ | ポリーニ 

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コメント一覧

1. Posted by がんばれ!公共放送NHK   2014年05月17日 14:53
現在nhkの「お願い!編集長」と云うサイトで下記の2つの番組を再放送するように要請しております。2014/5/23までに各100人の賛同が集まれば再放送されます。是非ご協力ください。
「n響アワー ポリーニとサヴァリッシュ」〜1978年のポリーニをソリストに迎えたブラームスのピアノ協奏曲第1番の公演〜http://www.nhk.or.jp/e-tele/onegai/detail/33021.html#main_section
「サヴァリッシュ ワーグナーを語る」http://www.nhk.or.jp/e-tele/onegai/detail/33021.html#main_section

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classicalmusic

早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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