2015年03月21日
リヒテルのシューマン:幻想曲、ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第17番「テンペスト」[SACD]
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リヒテルのアメリカへのセンセーショナルなデビューの翌年に収録された記念碑的な録音で、今でも当時の聴き手に与えた衝撃が色褪せずに伝わってくる、彼の演奏を語る上で欠かすことのできない1枚。
まさにリヒテル壮年期の名盤で、ベートーヴェンとシューマンの名作を緊密な構築力と劇的なダイナミズムを駆使して描き切っており、深い幻想性も湛え、今日でもベストに推される演奏内容だ。
両曲とも元の音楽のすばらしさに加えて、名人リヒテルの演奏によって、聴き手に届けられる音楽は一層の魅力と輝きを与えられた典型的な例の1つであろう。
ピアノの強弱の幅の広さ、スピードの変化の妙、間の取り方の絶妙さは音楽の感動表現に100%奉仕している。
聴いていて、演奏者の作為をまったく感じさせず、作曲家とリスナーとが対面しているような錯覚を覚える。
ベートーヴェンという作曲家は不思議な作曲家だと痛感させられるところであり、完全にロマン派に入ってしまいそうな曲だ。
また、シューマンの幻想曲はほの暗い世界の中で、夢と苦悩が無限の幅で交錯する世界を見事に描いている傑作で、リヒテルにはその能力を発揮するのに恰好の題材と思える。
ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第17番「テンペスト」は、他にも優れた名演が数多くあり、本盤がベストとは言い難いが、それでも演奏内容の水準は高い。
ベートーヴェンに相応しい強靭な打鍵と重量感は、この時代のリヒテルならではのものであり、それでいて、第2楽章の抒情の美しさにも出色のものがある。
この「テンペスト」は何か超越した領域にある演奏であることは間違いなく、リヒテルの奏でるピアニッシモは他の演奏家とは違う神秘的な音色である。
ギレリスやアラウの「テンペスト」も大変魅力的であるが、この演奏は単に「感動」だけでは語れない超越的で神秘的なものを感じてしまう。
まさに奇跡的な演奏であり、筆者も相当数聴いている方ではあるが、こんな演奏は聴いたことがない。
終始息を潜めて聴かなければならないほどの高い緊張感に包まれた神秘的な演奏であり、これほど神秘的な、精妙な響きを作り出せるピアニストはリヒテル以外にこれまでも、これからも現れないであろう。
このように「テンペスト」がメインのアルバムではあるが、筆者としては、むしろ、シューマンの幻想曲の方を高く評価したい。
それどころか、本盤のリヒテルの演奏は、シューマンの幻想曲の過去の様々な名演の中でもトップの座を争う超名演と高く評価したい。
絶妙なバランス感覚による演奏であるが、バランスではないのかも知れない。
リヒテルにとっては全てが必然のもとに演奏されているのであろう、きっと。
そして、この演奏の特徴の1つは、壮大なスケール感であろう。
とにかく、音楽全体の構えが実に大きい。
シューマンの演奏に際しては、ライナー・ノーツの解説にもあるようなファンタジーの飛翔が要求されるが、本盤のリヒテルのような気宇壮大な演奏だと、それだけでファンタジーにも溢れる名演に向けた大きなアドバンテージを得ることになる。
壮年期のリヒテルならではの力強い打鍵と生命力も健在であり、各楽章の描き分けも卓抜としたものがある。
まさに、すべての要素を兼ね備えた至高の超名演と言える。
リヒテルは緩急の変化により劇的効果を生み出すピアニストと言えるが、ここでのシューマンはその特長が生かされていて、とてもロマンティックな旋律を生み出している。
リヒテルの演奏を語る上で欠かすことのできない1枚と言えるだろう。
SACD化によって、音場が拡がるとともに、音質に鮮明さを増した点も評価したい。
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