2015年07月16日
アファナシエフのバッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻、第2巻
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バッハの「平均律クラヴィーア曲集」は鍵盤楽器だけではなく、音楽全体にとっての聖典であると言われている。
「平均律」は1オクターブを構成する12音の周波数の差を均等に調律する方法であるが、バッハはその12音それぞれを基音とし、さらに長調と短調の両方を作ることで全24の調性による練習曲を作った。
それが「平均律クラヴィーア曲集」全2巻である。
そんなバッハの「平均律クラヴィーア曲集」は、ピアノ音楽の旧約聖書とも言われているだけに、古今東西の多くのピアニストにとっては、新約聖書たるベートーヴェンのピアノ・ソナタと並んで、弾きこなすのは大いなる目標とされてきた。
かつては、グールドの超個性的な名演もあったが、グールドと並んで「鬼才」と称されるアファナシエフが、同曲に対してどのようなアプローチをしているのか、聴く前は大変興味津々であった。
同じロシアのピアニストであるリヒテルも、同曲に素晴らしい名演を遺しているが、アファナシエフのアプローチは、リヒテルの研ぎ澄まされた鋭利なピアニズムとは対照的で、ゆったりとしたテンポをベースとしたきわめて静的で精緻なものだ。
シューベルトの後期3大ピアノ・ソナタで見せたような、超スローテンポのやり過ぎとも言えるアプローチはここではいささかも見られない。
その分、肩すかしを喰わされたきらいがないわけではないが、バッハがスコアに記した音符を透徹した表現で完璧に描き出したという点においては、さすがは「鬼才」アファナシエフならではの個性的アプローチと言える。
第1巻では、最後のフーガを2バージョン収めているのも、アファナシエフの同曲への深い愛着とこだわりを感じさせる。
第2巻は、第1巻よりもさらに技巧的にも内容においても高度な内容を内包しているが、アファナシエフのアプローチは、第1巻の演奏といささかの変化もない。
シューベルトの後期3大ピアノソナタで見せたような極端なスローテンポによるあくの強いアプローチはとらず、ピアノ曲の旧約聖書とも称される同曲への深い畏敬の念を胸に抱きつつ、構成される全24曲(前奏曲とフーガを別の曲と考えると48曲)を1曲1曲、あたかも骨董品を扱うような丁寧さで、精緻に描き出していく。
全体として静けささえ感じられるほどであり、これぞバッハの音楽とも言うべき底知れぬ深みを湛えた演奏と言うべきである。
「鬼才」とも言われたアファナシエフにしては、少々物足りないとも思われるが、それだけ同曲集に対しての強い愛着とこだわりを感じさせる。
また、全体的に音楽を構成する個々の音が際立っていて、隙間の無いロジックパズルのように理路整然と整っている。
同じロシアの先輩ピアニストであるリヒテルの鋭角的なアプローチとは対照的であると考えるが、演奏から受ける感動においては、いささかの不足もなく、リヒテルの名演とは別次元の名演と高く評価したい。
技巧的にバリバリと弾く人も多い曲集だが、むしろこうやってじっくりと構えてもらった方が、ひとつひとつの音が際立って曲集全体の構造(つまり音楽の最も初歩的な理論)が理解しやすいと思う。
しばしば「鬼才」と評されるアファナシエフだが、ここで彼はその演奏によって、音楽理論の真髄へ迫る手がかりを与えてくれるのであり、音楽を勉強する人なら、聴いてみて損はないはずだ。
また、アファナシエフの透徹したピアノのタッチが鮮明な音質で味わえる点も、本名演の価値を高めるのに大きく貢献している。
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