2015年03月01日
グールドのハイドン:後期ピアノ・ソナタ集(6曲)
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1981年、グールド初のデジタル録音による、傑作中の傑作で、いかにもグールドらしい超個性的な名演だ。
ハイドンは偽作・真偽未確定作・一部分消失作を含んで58曲のソナタを残したと言われているが、このアルバムはその最後の6曲を取り上げている。
第56番や第58番の第1楽章の極端なスローテンポと、それに続く終楽章の快速テンポの見事な対比、偉大な傑作である第59番の水を得た魚のような生命力溢れる打鍵の嵐、3大ピアノ・ソナタの緩急自在のテンポを駆使した自由闊達な表現の巧みさ。
モーツァルトのピアノ・ソナタでは、ごつごつしたいささか不自然な表現も見られたが、本盤に収められたハイドンのピアノ・ソナタでは、そうした不自然さを感じさせるような表現はほとんど見られない。
作曲者が誰とか、曲がどうとか、そういう説明を一切必要としない名演で、最初の音が鳴り響いた時から、グールド・ワールドが展開する。
世界一級品の美術品の本物を目にした時のような直接性で、リスナーを瞬間的に虜にする。
シャープな音の切れと録音の良さが相俟った、冒頭から玉を転がすようなピアノの1音、1音から魅惑される。
その1音1音が明瞭でクッキリしている演奏は他の作品にも通じるグールドらしさで、勿論それは素晴らしい。
それに加え、そもそもロマン派以降の楽曲と較べると、情緒性や起伏という点では、「型」はあっても「体温」がないように筆者には感じられるハイドンの曲を、強弱とテンポを極端に使い分けることでここまで蘇生させるというのは、腕も勿論だが、やはり発想がまず天才的だと思う。
1980年代(つまり最晩年)のグールドの演奏では、あの2度目のゴールドベルク変奏曲の演奏に匹敵する、いや個人的にはそれをも凌駕するのではないかと考える稀代の名演だ。
才能とはやはり恐ろしいもので、彼の弾くバッハと同様の、抜群の面白さ溢れる演奏であり、音やリズムが水を得た魚の様に飛び跳ねてキラキラと空中に舞っている。
あまり採り上げられることがないハイドンのピアノ・ソナタでここまで美しい音世界を構築するグールドの力量には驚くばかり。
これだけ真剣に歌い上げて、リズムから構成全てきっちりとしているにも関わらず愉快さを感じさせ、気迫のこもった演奏であるにも関わらずあくまで軽く、洒落ているといった趣きの不思議な演奏。
ハイドンのピアノ曲を、「演奏」という創造行為で満たした奇跡のようなパフォーマンスと言えるところであり、「楽曲」と「演奏」の関係を再考するきっかけともなるであろう。
グールドは聴く者に類推させてくれるピアニストであり、グールドならあのソナタをこう弾くのではないか、というところが楽しいのである。
グールドの死は、本盤の収録後まもなく訪れることになるが、まさに、グールド畢生の名演と言っても過言ではないと思われる。
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