2015年06月03日

ケーゲル&ライプツィヒ放送響のベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」


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旧東独の鬼才、ヘルベルト・ケーゲルの最晩年、1987年7月31日に演奏されたステレオ・ライヴ録音。

曲開始早々、ケーゲルの気合いの入ったと思われる床に足を踏み込む音がドンドンと響く。

旋律といい、間のとり方といい、楽器の使い方といい、今まで聴けたことのない音がとにかくいろいろと聴こえてくるのである。

ティンパニの打音が、雷鳴のごとく響いて前面に出てくることといい、他楽器のパートもメリハリの利いた歌い方をしているのもやたら耳に届くが、これが不思議と異和感もなく楽しみながら鑑賞できるのである。

その後も明暗が入れ替わり立ち替わり現れる曲想の、暗の部分を、テンポを落としてじっくりと聴かせるところは、大変に充実感があり、また、そういうところの、弱音に素晴らしい味わいがあるわけだ。

対するに明の部分は決して燦然たる白熱の演奏ではないのだが、残念ながら、それに不満を感じるほど、私たちは能天気な時代に生きてもいない。

ベートーヴェンも政治の反動のなかでこの曲を書いたのだし、安倍政権の今日を生きる私たちもしかり。

もっと驚くのは、終楽章の最初のバリトンのソロが伸びやかで長く、ストレスを感じさせず何ともおおらかに開放的に歌われ出すことである。

これは、「第9」では初めての経験で非常に新鮮な展開であり、これはいい、と即座に納得した。

その後、合唱が意表をつくスローテンポで制御され、せかせかした感じがなくて非常に聴き易い。

この終楽章の演奏を、カンタータ的と評する人もいて、確かに、従来の型に全くはまらない合唱であるが、妙に説得力を感じさせる演奏となっている。

ともかく、筆者はこのフィナーレを聴きながら随所で驚きに打たれ、巻き戻しては聴き直した。

「第9」を食傷するほど聴いた私たちに、これほどまでに不意打ちを食わせる演奏はなかなかないことは確実だ。

曲が終わって、筆者の心配をよそに聴衆にも理解された様子で、拍手は盛大だ。

ケーゲルは、「お祭り騒ぎ的な『第9』が嫌いだ」と言っていたらしいが、なるほど、この「第9」は、彼が長い間構想を暖め考え抜いたあげくの「第9」の演奏と印象する。

出来上がりすぎてしまった大堂伽藍ではなく、生身で宇宙の嵐に身をさらす趣きがあり、宮澤賢治が魔物が現れてくると表現し、ミハイル・バクーニンが、全世界が滅ぶとも第9交響曲だけは救い出さなければならないと言ったものが、ここに感じられるようだ。

そして、筆者自身も、この演奏に大いに共感を覚えるようになった。

これは、従来の「第9」が、見え透いて軽く聴えてしまうようになる恐るベきチャレンジ演奏であると言っていい。

この演奏のユニークさ、あえて言うなら奇異は、ケーゲルが作品の内容を追いつめていった結果生まれたものに他ならない。

一見奇妙な解釈には合理的な訳があり、なぜこのような演奏になったのか、それをじっくり考えれば、私たちの「第9」理解はいっそう深まるに違いない。

べートーヴェンがどういう「第9」の演奏を求めていたかについて、従来の、フルトヴェングラーを筆頭に固定観念化されたスタイルについて、深く考え直させる機会を与える意義深い内容の演奏だ。

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classicalmusic at 20:32コメント(2)ベートーヴェン | ケーゲル 

コメント一覧

1. Posted by 山岡 修   2017年12月03日 16:13
ケーゲル&ライプツィヒ放送響のベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」1977年4月29日、ライプツィッヒ・コングレスハウレでのライブを聴かれたことがあるでしょうか? 私は、1977年夏(?)NHKーFMでの放送を聴きました。ケーゲルという指揮者のことは全く知りませんでしたので、第3楽章からカセットテープに録音しました。以来、テープが海藻のように伸びるまで、何十回と聴きました。私にとって、この演奏を超えるものに出会ったことがありません。フルトヴェングラーのバイロイト祝祭盤(1951年ライブ)は別格ですが、四重唱などは、実に美しいと思います。1987年の演奏は、美しいとは思いません(「美しい」という表現は、フルトヴェングラーの精神的な高さ・深さに比しての私なりの表現です)。現在は96kHz-24bitで保存していますので、宜しければ、お送りしてもいいです。いわゆるハイ・レゾのように聴いて頂ければ、CDに落としたものよりは、いい音で聴けると思います。esoteric などが、元テープを発掘しSACDにしてくれないものかと思っています。
2. Posted by 和田   2017年12月07日 19:10
山岡さん、貴重な情報ありがとうございます。
私はご指摘の演奏を聴いたことがありません。興味深いですね。
ご厚意は有難いのですが、ここに私の住所を明記する訳にいかないので、自力で探し出したいと思います。

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Profile

classicalmusic

早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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