2023年03月13日
一聴すると何らの変哲もない曲想の中に👴晩年のベームならではの🌶️スパイスの効いた至芸を垣間見ることができる🎚️R.シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」[SACD]🔊
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R.シュトラウスと親交があった往年の巨匠カール・ベームによる《英雄の生涯》を収めたSACD盤。
ベーム晩年の落ち着いた音楽運びが描く雄大なスケールと、一昔前のウィーン・フィルらしいふくよかなサウンド、そしてヴァイオリニスト、ゲルハルト・ヘッツェルが添える色どり等、古き良き時代の音がする名演。
かつて筆者は、本盤の《英雄の生涯》を1980年代に発売された初期西独プレスのCDで聴いたことがあるが、あまりのつまらなさに途中で聴くのをやめたのを思い出す。
というのも、いかにも晩年のベームの欠点が露呈した硬直化したテンポによる鈍重な印象を受けたからであり、それ以降、筆者のCD棚に眠ったままであった。
ベームの《英雄の生涯》については、本盤の3年前にバイエルン放送響とライヴ録音したオルフェオ盤があり、ライヴならではの熱気もあって、筆者はそちらの方を愛聴してきた。
しかし、先般SACD化され、飛躍的に音質が向上した本盤を聴いて大変驚いた。
そこには鈍重さなど微塵もなく、堂々たるインテンポによる巨匠の至芸を大いに感じたからである。
全体にテンポは遅めであり、《英雄の生涯》を得意としたカラヤンの名演のように、ドラマティックとか華麗さとは全く無縁であるが、一聴すると何らの変哲もない曲想の中に、晩年のベームならではのスパイスの効いた至芸を垣間見ることができる。
深々と暖かく柔らかな響き、そして貫祿を備えた滑らかな堂々たる音楽の進行、完熟期ベーム&ウィーン・フィルならではの《英雄の生涯》である。
ベームは分厚いオーケストレーションを丁寧に捌きながら音楽を重層的に響かせているが、それがオケの美質を最大限に生かす結果に繋がっている。
よく聴かれるこれみよがしの大げさな表現は無く、なんとなく聴いていると地味だし冷静すぎると思う人もいるかもしれない。
しかし、繰り返しと聴く度に実に素晴らしく、音楽の流れに自然に従っているように聴こえるのはまさに練達の演奏ぶりと言えるだろう。
派手になりすぎないところがベームのR.シュトラウス演奏の極意であり、自己顕示欲の塊のようなこの曲のいやらしさが感じられないくらいで、だからこそこの演奏は古びないのであろう。
ベームの的確な解釈と重厚な演奏は、作曲家と親交のあった彼ならではの作品となっている。
一例をあげると「英雄の業績」。
ここは、R.シュトラウスの過去の楽曲のテーマが回想されるが、ベームはここで大きくテンポを落とし、主旋律を十分に歌わせながら、《ティル》や《死と変容》、《ドン・ファン》などの名旋律を巧みに浮かび上がらせており、この老獪ささえ感じる巧みな至芸は、他のどの演奏よりも素晴らしいと言えるだろう。
ベームの晩年において、自分の友人であったR.シュトラウスの作品を用いて過去を振り返るという懐古的雰囲気をあえて表現した、というべきであろう。
さらにこの時代のウィーン・フィルの音色も魅力的で、特に朗々たるホルンの響きは今や聴くことができないものと言える。
ベームが最も信頼した名コンサートマスターのヘッツェルのソロが聴けるのも、本盤の価値を大いに高めることに貢献している。
音質は前述のように従来盤とは段違いに素晴らしく、鮮明さ、音場の幅広さ、音圧などのどれをとっても一級品の仕上がりであり、あらためて本演奏の素晴らしさとSACD盤の潜在能力の高さを思い知った次第である。
いずれにしても、ベーム&ウィーン・フィルによる名演を現在望みうる最高の高音質SACDで味わうことができるのを大いに歓迎したい。
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