2015年05月09日
ルイサダのショパン:マズルカ集
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1958年チュニジア生まれのピアニスト、ジャン=マルク・ルイサダのワルツ集に続くDGへのショパンの第2作であった。
ルイサダの国際コンクールの入賞歴は思いの他少ないのであるが(1985年のショパン国際コンクールで第5位入賞)、個性的な解釈と文学的な表現から多くのファンを持ち、日本でもテレビ番組の講師を務めたことで、大人気となったことは記憶に新しいところだ。
このマズルカは1990年の録音で、ルイサダの評価が一気に高まるきっかけとなった重要な演奏であり、音楽評論家の故吉田秀和氏が褒めちぎった名盤でもある。
マズルカはショパンのポーランドを想う切ないペーソスに溢れた最も魅力ある曲種だと思う。
悲喜こもごも、この曲集の中にはポーランドの古くからの民俗的な音階やリズムが飛び交う。
その演奏内容であるが、非常に個性が強く、かなり極端なルバートがかけられていて、仮に車の運転でこんなにブレーキとアクセルを繰り返したら絶対に酔ってしまうであろうが、この演奏では不思議なことにそれが自然に感じられるのだ。
ルイサダの演奏はとても表情豊かで、ショパンの喜び、悲しみ、郷愁、すすり泣き、時には慟哭も聴こえてきて、まるでショパンの心情をルイサダが代弁しているようにも思える。
ルイサダのピアノはまず何と言っても詩情豊かであり、濁りのないタッチで透き通った美しさを示す。
マズルカのあの憂いある微妙なニュアンスはルイサダの多彩なタッチと同化し、自然な抑揚感の中に溶け込んでいく。
ルイサダはそれぞれの曲の性格をきわめて自在に弾きこなし得る抜群のセンスの良さを持った演奏家であると言える。
かつてショパンが異国の地において遠い祖国を想い綴った、いわば日記帳のように書き留められた彼の切ない情感の揺らぎがこの演奏から聴き取れる。
そんなルイサダの演奏には回顧的な味わいがある一方、大胆な作品への今日的な切り込みもある。
マズルカのリズムがもつ独特の味をきわめてシャープに強調するが、1曲ごとにショパンが書いた表現のニュアンスを発見しており、演奏を新鮮なものとしている。
初期から後期まで作品の解釈が同じレヴェルという点では類型的と言えるが、確固とした世界が築かれている点は立派である。
また、楽譜を改変して弾いているところも何箇所かあるが、それもことごとくしっくりくるので、やはりルイサダにしかできない素晴らしい演奏だと感じてしまう。
特に作品41ー1などは、まるでショパンが郷愁にかられてすすり泣いているように思えるような演奏で、聴いていて思わず胸が熱くなってしまった。
躍動的なリズムと、時折見せる深い慟哭が、マズルカを単なる舞踊音楽ではないものとして品格を高めているのである。
この他にも筆者はいくつものマズルカ集を持っているが、全曲を1度に聴くのはかなりエネルギーが要るので、いつもは好きな曲を抜粋して聴いていた。
しかしながら、ルイサダの演奏は『次はどんなふうに弾くのだろう』とワクワクしてしまい、あっという間に全曲を楽しんでしまったのである。
生き生きしていて熱く深い、でも決して押しつけがましくなく、素直な気持ちで聴ける、とても好感が持てる素晴らしい演奏だと思う。
普通のマズルカに飽きてしまっている人には是非お薦めしたい演奏であるが、スタンダードな演奏を聴きたい人には、ルービンシュタイン盤かステファンスカ盤をお薦めしたい。
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