2015年04月01日

F=ディースカウ&ポリーニのシューベルト:歌曲集「冬の旅」(1978年ライヴ)


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フィッシャー=ディースカウが、ポリーニという絶好の共演者を得て、1978年にザルツブルク音楽祭に於いて、十八番にしていた《冬の旅》を演唱した貴重な記録である。

彼自身、1970年代初めの頃のあのムーアとの録音を最高とは考えていなかった証拠と言えないだろうか。

ムーアには、伴奏者が持つ限界が見えている。

同じリートをいろいろな歌手達と何度も何度も演奏し、録音する生活の中では、自ずから自分のスタイルを失っていくことになるのではなかろうか。

それに反して、エンゲルとか、デムスとか、ブレンデルとか、一流のピアニストには、1つのリートに一回性を求める立場が保留されている。

それだからこそ、個性的な伴奏が、新鮮な解釈と共に可能になるのだ。

そうした中で、稀代のピアニストとして大成したマウリツィオ・ポリーニは、傑出した伴奏者として特筆に値する音楽家である。

ポリーニの豊かな音楽体験と、厳しい人生経験から、この名伴奏が産まれたことは明らかである。

フィッシャー=ディースカウはこの人を伴奏者に得て、ムーア盤で示した独特の《冬の旅》解釈を極限まで洗練させ、完成した名演としてレコードに残すことに成功したのである。

演出を越え、解釈を克服したところに、無類の《冬の旅》の出現がありえたわけで、これは奇蹟でも、偶発的産物でもない、至芸というものなのである。

細かいことを言えば、第6曲「あふれる涙」での三連音符と付点音符の組み合わせだが、ポリーニの解釈こそ彼の豊かな音楽体験の産物なのであって、ショパンの《24の前奏曲》とか、バッハの《平均律》などを深く研究したピアニストなら、疑いもなく、ポリーニの解釈を正統と評価するに違いない。

伴奏の専門家たちの手から、こうした解釈が決して産まれなかったのは、それなりの理由がある。

つまり、記譜上の書式通りに弾こうとするから問題が起こるのであって、書式と実際の演奏法の間の関係について、時代様式の心得がないと、シューベルトでもシューマンでも、問題が起こるのだ。

続く「河の上で」も素晴らしい演奏で、こうした名演は、ピアノのパートの干渉度が大きい曲では、声楽家の努力と才能だけでは産まれえぬものなのである。

「鬼火」や「春の夢」などにも同じことが言えるところであり、特に一見幸福そうな後者から、これだけ深い悲しみが表現できようとは、驚異としか言いようがない。

ここまで行くと、この意外というほかないフィッシャー=ディースカウとポリーニという組み合わせが、結果として最高の名コンビということになった。

後半12曲に入っても、緊張感は衰えることなく、最後の5曲に凝集されていく《冬の旅》のエッセンスは、ますます純度を増していく。

曲尾にそれまで示されていた歌唱の唐突なクレッシェンドは、ここでは姿を消し、歌のパートに代わってピアノが不気味な盛り上がりを聴かせている。

「決して静まることがない」ライアーマンの楽器がそこでは前面に出るのである。

そして、ポリーニはフィッシャー=ディースカウの期待に応えて、ピアノの右手の奇妙な旋律を絶妙に歌い上げている。

それは歌唱の弱まって終わる効果と見事な対比を形成してわれわれの心の中に未聞の深い印象を残すのだ。

《冬の旅》ここに窮まる。

この名演があっては、プライもホッターも出る幕がなさそうである。

そして、大半の責任は歌手にあるのではなく、伴奏者の選択にあることを、この名録音が教えてくれているのではなかろうか。

フィッシャー=ディースカウは、53歳に達してとうとう最高の伴侶を得たのである。

音質もフィッシャー=ディースカウの息づかいとポリーニのピアノタッチが明瞭に聴こえるなど、1978年のライヴ録音としては極めて優れたものと評価したい。

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早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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