2015年03月29日
小林研一郎&チェコ・フィルのベートーヴェン:交響曲第8番、第9番「合唱」
この記事をお読みになる前に、人気ブログランキングへワンクリックお願いします。
小林研一郎が古希を迎えたのを契機として進められていたチェコ・フィルとのベートーヴェンの交響曲全集のシリーズ第5弾の登場で、小林研一郎による初のベートーヴェンの交響曲全集が完成されたというのは大変うれしい限りである。
小林研一郎は、もともとレパートリーの少ない指揮者であり、新しい楽曲に挑戦する際には常に慎重な姿勢で臨むのを旨としてきた。
もっとも、ひとたびレパートリーとした楽曲については、それこそ何度も繰り返し演奏することによって、よりレベルの高い演奏を目指すべく研鑽を積んできた。
チャイコフスキーの交響曲(特に「第5」)にしても、マーラーの交響曲(特に「第1」「第5」「第7」)にしても、ベルリオーズの幻想交響曲にしても、名演が多いのはそうした理由によるところが大きい。
それはさておき、このベートーヴェン・チクルスのこれまで発売された演奏の評価は必ずしも芳しいものは言い難い。
レコード芸術誌などにおける音楽評論家による評価も酷評に近い状態にあるし、ネットにおける様々なレビューでも良い評価をされている方は殆ど稀である。
その理由を考えると、おそらくは、小林研一郎によるアプローチの立ち位置が難しいという側面があるのではないだろうか。
ベートーヴェンの交響曲の演奏は、近年ではピリオド楽器の使用や現代楽器を使用した古楽器奏法による演奏が主流を占めているが、小林研一郎はそうした近年の流行は薬にしたくもない。
それでは、これまでの独墺系の錚々たる大指揮者が築き上げてきたドイツ正統派たる重厚な演奏を希求しているのかと言うと、これまた全くそうした伝統的な演奏様式などいささかも念頭にないと言えるところだ。
このように、小林研一郎の演奏は、個の世界にあるものであり、その個性が演奏の隅々にまで行き渡ったものとも言えるだろう。
それ故に、聴き手によっては、小林研一郎の体臭芬々たる演奏に辟易するということも十分に考えられるところだ。
しかしながら、本盤に収められた「第8」は、ベートーヴェンの交響曲の中では、剛よりも柔的な要素が多い楽曲であることから、「炎のコバケン」とも称されるようなパッションの爆発は最小限に抑えられており、これまでの小林研一郎によるベートーヴェンの交響曲演奏にアレルギーを感じてきた聴き手にも、比較的受け入れられやすい演奏と言えるのではないだろうか。
もっとも「第9」のフィナーレなどには、そうした小林研一郎の途轍もない燃焼度の高さの片鱗も感じられる点は相変わらずであり、筆者が学生時代に東京芸術劇場でライヴに接した時の感動的名演を思い起こさせる。
つまるところ、没個性的な凡演や、はたまた近年流行のピリオド楽器の使用や古楽器奏法による軽妙浮薄な演奏などと比較すると、はるかに存在価値のある演奏と言えるのではないだろうか。
確かに、両曲のベストの名演とは到底言い難いが、小林研一郎一流の熱き歌心が結集するとともに、オーソドックスなアプローチの中にも切れば血が出てくるような灼熱のような指揮ぶりも堪能することが可能な、いい意味でのバランスのとれた名演と評価するのにいささかの躊躇もするものではない。
そして、小林研一郎による指揮に、適度の潤いと奥行きの深さを与えているのが、チェコ・フィルによる名演奏と言えよう。
ホルンをはじめとする管楽器の技量には卓越したものがあり、弦楽器の重厚で深みのある音色も実に魅力的というほかはない。
音質は、SACDによる極上の高音質であり、小林研一郎&チェコ・フィルによる名演を望み得る最高の鮮明な音質で味わうことができるのを大いに歓迎したい。
ところで、クラシック音楽情報ならこちらがオススメです。
人気ブログランキング
フルトヴェングラーのCDなら、 フルトヴェングラー鑑賞室。