2015年08月08日
ハイティンク&ロンドン・フィルのショスタコーヴィチ:交響曲第10番(1986年ライヴ)
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1986年8月28日、ロイヤル・アルバート・ホールでのライヴ録音で、ハイティンクが得意とするショスタコーヴィチの交響曲の待望の再録音の登場だ。
ハイティンクは、本盤に収められた交響曲第10番を約10年前にも同じロンドン・フィルとともに、ショスタコーヴィチの交響曲全集の一環としてスタジオ録音(1977年)していることから、本演奏はハイティンクによる同曲の2度目の録音ということになる。
ところで、ハイティンクほど評価が分かれる指揮者はいないのではないか。
長年に渡ってコンセルトへボウ・アムステルダムの音楽監督をつとめ、ポストカラヤン争いでも後継者の候補の一人と目されベルリン・フィルの団員にも愛された指揮者であり、そして現在ではシカゴ交響楽団の音楽監督をつとめるという輝かしい経歴の持ち主であるにもかかわらず、ハイティンクの名声が揺るぎないものとは言い難い状況にある。
ハイティンクは全集マニアとして知られ、数多くの作曲家の交響曲全集を録音している。
いずれも決して凡演というわけではなく、むしろいい演奏ではあるが、他の指揮者による演奏にも優るベストの名演を成し遂げているとは言い難いのではないだろうか。
このように、ベターな演奏を成し遂げることが出来てもベストの名演を成し遂げることができないところに、ハイティンクという指揮者の今日における前述のような定まらない評価という現実があるのかもしれない。
もっとも、ハイティンクが録音した数ある交響曲全集の中でも、唯一ベストに近い評価を勝ち得ている名全集がある。
それは、完成当時はいまだ旧ソヴィエト連邦が存在していたということで、西側初とも謳われた前述のショスタコーヴィチの交響曲全集(1977〜1984年)である。
これは、ハイティンクに辛口のとある影響力の大きい有名音楽評論家さえもが高く評価している全集だ。
もっとも、当該全集については、すべての演奏がベストの名演というわけではないところが、いかにもハイティンクらしいと言える。
ハイティンクは、ロンドン・フィルとコンセルトへボウ・アムステルダムの両オーケストラを使い分けて全集の録音を行ったが、どちらかと言えば、コンセルトへボウ・アムステルダムを起用した演奏の方がより優れていた。
したがって、当該全集に収められた交響曲第10番の演奏は、いささか不満の残る内容であったことは否めないところだ。
ところが、本盤に収められた約10年ぶりの本演奏は、当該全集に収められた演奏とは段違いの素晴らしい名演に仕上がっていると評価したい。
本演奏におけるハイティンクのアプローチは直球勝負。
いずれの演奏においても、いかにもハイティンクならではの曲想を精緻に、そして丁寧に描き出していくというものであり、ショスタコーヴィチがスコアに記した音符の数々が明瞭に表現されているというのが特徴である。
したがって、ショスタコーヴィチの交響曲の魅力を安定した気持ちで味わうことができるというのが素晴らしい言えるところだ。
加えて、本演奏には、晩年を迎えたハイティンクならではの奥行きの深さが感じられるところであり、さすがにムラヴィンスキー&レニングラード・フィルによる超名演(1976年)ほどの凄みはないが、同曲に込められた作曲者の絶望感などが、淡々と進行していく曲想の中の各フレーズから滲み出してくるのが見事である。
このような彫りの深い名演を聴いていると、ハイティンクが今や真の大指揮者になったことを痛感せざるを得ないところだ。
ハイティンクの確かな統率の下、旧盤でも演奏したロンドン・フィルが持ち得る実力を最大限に発揮した入魂の名演奏を繰り広げているのも、本名演に大きく貢献しているのを忘れてはならない。
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