2015年03月28日

アバド&ロンドン響のメンデルスゾーン:交響曲全集


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アバドの指揮する独墺系の作曲家による楽曲については、そのすべてが名演とされているわけではないが、その中で、メンデルスゾーンについては、既に録音された演奏のすべてが名演との評価を得ている数少ない作曲家である。

本盤には、アバドが1980年代にロンドン交響楽団とともに録音(1984、1985年)したメンデルスゾーンの交響曲全集が収められている。

どの曲も、ロマン派ながらバッハに傾倒してもいたメンデルスゾーンにふさわしい、ロマン的な抒情性と端正な造形を兼ね備えた演奏で、第一級の全集と言って良いだろう。

アバドは、本演奏の約20年前の1967年にも、ロンドン交響楽団とともに交響曲第3番及び第4番を録音(英デッカ)しており、それも当時気鋭の指揮者として人気上昇中であった若きアバドによる快演であったが、本演奏の方が円熟味など様々な点からしてもより素晴らしい名演と言えるだろう。

また、アバドは1995年にも、ベルリン・フィルとともに交響曲第4番をライヴ録音(ソニークラシカル)しており、それは実演ならではの熱気溢れる豪演に仕上がっていることから、第4番に限っては、1995年盤の方をより上位に置きたいと考える。

それはさておき本演奏についてであるが、本演奏の当時のアバドは最も輝いていた時期である。

ベルリン・フィルの芸術監督就任後は、借りてきた猫のように大人しい演奏に終始するアバドではあるが、この時期(1970年代後半から1980年代にかけて)に、ロンドン交響楽団やシカゴ交響楽団、そしてウィーン・フィルなどと行った演奏には、音楽をひたすら前に進めていこうとする強靭な気迫と圧倒的な生命力、そして持ち前の豊かな歌謡性が融合した比類のない名演が数多く存在していたと言える。

本盤の演奏においてもそれは健在であり、どこをとっても畳み掛けていくような気迫と力強い生命力に満ち溢れているとともに、メンデルスゾーン一流の美しい旋律の数々を徹底して情感豊かに歌い抜いていると言えるところであり、その瑞々しいまでの美しさには抗し難い魅力に満ち溢れている。

重厚さにはいささか欠けているきらいがないわけではないが、これだけ楽曲の美しさを堪能させてくれれば文句は言えまい。

アバドは欧米のオーケストラにイタリア的な新風を吹き込んだ指揮者であることは誰しも認めるところだが、それは先輩ジュリーニの孤高の至芸に比べれば更に徹底したものだった。

この傾向は図らずもムーティによって受け継がれることになるが、そのテクニックには先ずオーケストラからの音のベクトルの転換というストラテジーがある。

端的に言えば、伝統的なオーケストラには特有の個性や芸風が培われていて、それが長所にも、また場合によっては枷にもなるわけだが、その枷の部分を取り払うことによってオーケストラを一度解放し、楽員の自発性を発揮させながら新たに全体をまとめていくというのがアバドの手法だ。

特にメンデルスゾーンのように天性の平明さを持った屈託の無い音楽には理詰めの厚化粧は禁物で、むしろ風通しの良いフレッシュな感性と開放感の表出がより適しているだろう。

そうした意味でこのメンデルスゾーンの交響曲全集では彼らによって最良の効果が発揮されているように思う。

少なくともオーケストラの自主性がよく表れた演奏で、ロンドン交響楽団の音色もアバドの指揮の下では何時になく明るく軽快になっているのも偶然ではないだろう。

しかも彼らが伝統的に持っている凛とした気品は少しも失われていない。

いずれにしても、本盤の演奏は、アバドが指揮した独墺系の音楽の演奏の中では最高峰の1つに位置づけられる素晴らしい名演と高く評価したいと考える。

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早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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