2015年05月06日

ベーム&ウィーン・フィルのモーツァルト:交響曲第29番、第35番「ハフナー」、フリーメイソンのための葬送音楽


この記事をお読みになる前に、人気ブログランキングへワンクリックお願いします。



ベームは終生に渡ってモーツァルトを深く敬愛していた。

ベルリン・フィルと成し遂げた交響曲全集(1959〜1968年)や、バックハウスやポリーニと組んで演奏したピアノ協奏曲の数々、ウィーン・フィルやベルリン・フィルのトップ奏者との各種協奏曲、そして様々なオペラなど、その膨大な録音は、ベームのディスコグラフィの枢要を占めるものであると言っても過言ではあるまい。

そのようなベームも晩年になって、ウィーン・フィルとの2度目の交響曲全集の録音を開始することになった。

しかしながら、有名な6曲(第29、35、38〜41番)を録音したところで、この世を去ることになってしまい、結局は2度目の全集完成を果たすことができなかったところである。

ところで、このウィーン・フィルとの演奏の評価が不当に低いというか、今や殆ど顧みられない存在となりつつあるのはいかがなものであろうか。

ベルリン・フィルとの全集、特に主要な6曲(第35、36、38〜41番)については、リマスタリングが何度も繰り返されるとともに、とりわけ第40番及び第41番についてはシングルレイヤーによるSACD&SHM−CD化もされているにもかかわらず、ウィーン・フィルとの録音は、リマスタリングされるどころか、国内盤は一時は廃盤の憂き目に陥っていたという極めて嘆かわしい現状にある。

確かに、本盤に収められた第29番及び第35番の演奏については、ベルリン・フィルとの演奏と比較すると、ベームならではの躍動感溢れるリズムが硬直化し、ひどく重々しい演奏になっている。

これによって、モーツァルトの交響曲に存在している高貴にして優美な愉悦性が著しく損なわれているのは事実である。

しかしながら、一聴すると武骨とも言えるような各フレーズから滲み出してくる奥行きのある情感は、人生の辛酸を舐め尽くした老巨匠だけが描出し得る諦観や枯淡の味わいに満たされていると言えるところであり、その神々しいまでの崇高さにおいては、ベルリン・フィルとの演奏を遥かに凌駕していると言えるところである。

モーツァルト指揮者としてのベームは、「どんな相談にものってくれる博学の愛すべき哲学者」といった雰囲気をたたえており、彼の前に立っているだけで嬉しい気分になってしまう。

ウィーン・フィルとの録音は確かに多数残されたが、このモーツァルトはベームが亡くなる前のほぼ5年間に録音されたものである。

絶妙なるテンポを背景とする自然な音の流れ、磨き抜かれているが決して優しさを失わないフレージング、引き締まったアンサンブルを背景に繰り広げられる演奏はまさに生きた至芸と言いたい。

聴き手それぞれに思い入れのある名演であるが、筆者の座右宝はまずは第29番だ。

いずれにしても、総体としてはベルリン・フィル盤の方がより優れた名演と言えるが、本演奏の前述のような奥行きのある味わい深さ、崇高さにも抗し難い魅力があり、本演奏をベームの最晩年を代表する名演と評価するのにいささかも躊躇するものではない。

音質については、従来盤でも十分に満足できる音質であるが、今後は、リマスタリングを施すとともにSHM−CD化、更にはシングルレイヤーによるSACD&SHM−CD化を図るなどによって、本名演のより広い認知に繋げていただくことを大いに期待しておきたい。

ところで、クラシック音楽情報ならこちらがオススメです。
人気ブログランキング



フルトヴェングラーのCDなら、 フルトヴェングラー鑑賞室



classicalmusic at 22:42コメント(2)モーツァルト | ベーム 

コメント一覧

1. Posted by 小島晶二   2023年03月24日 22:23
5 ベーム最晩年を代表する名演という評価に賛成。1981年はベームが逝去した年で,その年のリーダースチョイスではC.クライバーのブラ4に次いで,ベストツーに選出されました。その頃はまだLP期でしたが,CD期になって私も本盤を購入しました。ウィーンフィルの美感を十分引き出した秀麗な演奏で,特に29番が心に浸みます。35番ではもっと躍動感が欲しい気がしますが,これはこれで落ち着いた秀演だと感じます。
2. Posted by 和田大貴   2023年03月24日 22:46
ベームのモーツァルトに対する敬愛は、1959年から68年までに収録されたベルリン・フィルとのステレオ初の交響曲全集に昇華していますが、このウィーン・フィルとの録音はそれからさらに10余年も経て録音されたものです。それは、最晩年の円熟というような単純な図式ではなく、ベームのモーツァルト観やこれらの作品に対する知的な畏敬の念を、かなり重厚なスケールの中に明らかにしたものといえるでしょう。この演奏の特色は、一言でいえば、およぶ限りの表現の贅肉をそぎ落としてしまった点にあります。ベームの指揮の一大特徴であるリズムの生気は、典雅な柔らか味をこえて、しばしば厳しい鋭さを示します。響きの色彩の具合も単純明快で、情緒的世界に結びつき易い色合いを強く制しています。情感豊かなワルター盤に対し、ベーム盤はきわめて峻厳な演奏です。感傷的な流れにおちいらず、楽曲のもつ構成的な美しさを引き出しているところが見事です。ウィーン・フィル固有のオーボエとホルンの音が有効に使われています。音楽の構造性においても、その音響においても、骨格の確かさや太さを思わせ、芯の通った力強さを聴かせていますが、そこには彼ならではの品格が見えます。

コメントする

名前
 
  絵文字
 
 
メルマガ登録・解除
 

Profile

classicalmusic

早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

よろしくお願いします(__)
Categories
Archives
Recent Comments
記事検索
  • ライブドアブログ