2015年06月26日
ゲルバーのベートーヴェン:ピアノ・ソナタ<悲愴><月光><熱情>
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現代を代表する名ピアニストの1人であるゲルバーが残した格調の高いベートーヴェン3大ピアノ・ソナタであるが、ゲルバーのベートーヴェンは素晴らしい。
同じく「テンペスト」、「ワルトシュタイン」、「告別」の3大人気ピアノ・ソナタがBlu-spec-CD化されており、それも音質の素晴らしさも相まって見事な演奏であったが、本盤の3曲も、それらの演奏に優るとも劣らない素晴らしい名演奏だ。
ゲルバーはアルゼンチン生まれのピアニストだが、現在では数少ない、ドイツピアニズムの正統な後継者になっている。
ただし、同じくドイツピアニズムの後継者であるゲルハルト・オピッツがしばしば「堅すぎる」「不器用だ」という批評を受けるのに対して、ゲルバーの演奏にはそういった面は見られない。
テンポ設定は少し速めだが、重厚な響きをフルに生かしたゲルバーらしい演奏に仕上げられている。
ゲルバーによるベートーヴェンのピアノ・ソナタの演奏の特色は、何と言ってもその美しさにある。
もっとも、単なる表面上の美しさにとどまっているわけではない。
その美しさは、後述のように深い内容に裏打ちされていることを忘れてはならない。
加えて、演奏全体の造型は堅固であり、ドイツ風の重厚さが演奏全体に満ち満ちており、独墺系のこれまでの様々な偉大なピアニストの系譜に連なる、まさにいい意味での伝統的な演奏様式に根差したものであると言えるだろう。
「悲愴」、「月光」の終楽章や、「熱情」の第1及び終楽章の雄々しく男性的な打鍵の力強さ、「悲愴」の第2楽章や「月光」の第1楽章の繊細な抒情、これらを厳しい造型の中でスケール豊かに表現している。
テンポも目まぐるしく変わり、最強奏と最弱音のダイナミックレンジも極めて幅広いが、ベートーヴェンとの相性の良さにより、恣意的な表現がどこにも見られず、ベートーヴェンの音楽の魅力がダイレクトに伝わってくる。
そして、どこをとっても、眼光紙背に徹しているとも言うべき厳格なスコア・リーディングに基づいた音符の読みの深さが光っており、前述のようにいわゆる薄味な個所は皆無であり、いかなる音型にも、独特の豊かなニュアンス、奥深い情感が込められていると言えるところだ。
技術的にも何らの問題がないところであり、随所に研ぎ澄まされた技巧を垣間見せるが、いささかも技術偏重には陥っておらず、常に内容の豊かさ、彫りの深さを失っていないのが見事であり、知情兼備の演奏であると言っても過言ではあるまい。
総括すれば、いい意味での剛柔のバランスのとれた演奏というのが、ゲルバーによるベートーヴェンのピアノ・ソナタの演奏であると言えるところであり、ドイツ正統派の伝統的な演奏様式に、現代的なセンスをも兼ね合わせた、まさに現代におけるベートーヴェンのピアノ・ソナタ演奏の理想像の具現化と評価し得ると考えられるところだ。
まさに巨匠の芸風といえるスケールの大きさ、凝縮された感情、叙情、ファンタジー、どこを切っても濃密で熱い血がほとばしる迫真のベートーヴェンである。
いずれにしても、本盤の各楽曲の演奏は、ゲルバーならではの素晴らしい名演と高く評価したいと考える。
音質については、従来CD盤でも1990年前後のスタジオ録音ということもあって、比較的満足できる音質であると言えるが、これだけの名演だけに、長らくの間、高音質化が望まれてきた。
そのような中で、今般、かかる名演が待望のBlu-spec-CD化がなされたということは、本演奏の価値を再認識させるという意味においても大きな意義がある。
ゲルバーによるピアノタッチが鮮明に再現されるのは殆ど驚異的であり、あらためてBlu-spec-CD盤の潜在能力の高さを思い知った次第だ。
いずれにしても、ゲルバーによる素晴らしい名演をBlu-spec-CDで味わうことができるのを大いに喜びたい。
そして、可能であれば、既にBlu-spec-CD化されている「テンペスト」、「ワルトシュタイン」、「告別」も含めて、シングルレイヤーによるSACD&SHM−CD化して欲しいと思っている聴き手は筆者だけではあるまい。
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